小説

『マッチ売りの幸せ』真銅ひろし(『マッチ売りの少女』)

 先生が答案用紙を渡してくる。
「100点。」
「おお~。」
 どよめきが起こる。
 これで全科目95点以上だ。たぶん学年で一番だろう。
「・・・。」
 みんなから羨望の眼差しを受けながら自分の席に戻る。
「美貴、相変わらず凄いね。」
 隣の席の洋子が半ば呆れたような表情で話しかけて来る。
「どうしたらそんな点数取れるのか不思議でしょうがないよ。」
「・・・ただ、勉強してるだけ。」
「おお、嫌味。」
「違うよ、ただ本当に勉強してるだけ。」
 謙遜気味に答えたが、洋子はニヤニヤと笑みを浮かべている。
「・・・。」
 答案の100点の文字を見つめる。
 確かに毎日勉強しているし、良い成績を取ると嬉しい。でも私は良い点数を取らなければいけないと思っていた。

 学校が終わり、その足で街の図書館に行く。そしてまたそこで勉強をする。学校の図書館より街の図書館の方が参考資料の数が多い。それになんとなく年齢層がバラバラの方が落ち着いた。暖房が効いている館内で教科書を開き今日の復習を始める。
 12月。来年は高校受験が待っている。自分はどこの高校に行けるだろうか?
「・・・。」
 入れるのであればどこでもいいか。
 そんな考えがすぐに浮かぶ。制服が可愛い学校、学力が高い進学校、スポーツが盛んな高校。選ぼうと思えばたぶんどこへでも行ける学力はある。けれど私には選択する権利はない・・・。
 人がまばらになっていく。そろそろ閉館の時間だ。
 外に出ると風がとても冷たかった。商店街を通って家に帰るのだが、通りにはクリスマスの音楽が流れ、お店の装飾もクリスマス仕様になっている。

 「ただいま。」
 部屋の電気をつける。夜の8時なのに誰もいない。冷え切った部屋にストーブのスイッチを入れる。
 冷蔵庫を開けるとほとんど食材が入っておらずお酒ばかりが入っている。しかしその中に焼きそばが一袋残っていた。
「・・・。」

1 2 3 4 5 6