小説

『マッチ売りの幸せ』真銅ひろし(『マッチ売りの少女』)

 いつからこんな風になってしまったか?それはたぶん母と離婚したからだろう。この父親なら母親も母親だ。ある日突然家に帰ってこなくなって、メールで『好きな人が出来ました。』と送ってきて、それで終わり。後は離婚届を送ってこられ一方的に結婚を解消された。
 それからの父はと言うと、もともとだらしない性格だった所に拍車がかかって、もっとだらしなくなった。特に私が家計を把握している訳じゃない。だから父からパチンコや競馬が勝った時にしか小遣いをくれない。あとは生活用品が無くなったときだけお金を渡されるので、そこで安いところを探して差額を貰うくらいしかお金を手に入れる手段はない。なので同級生が持っているスマホも持っていない。
 まれに見る貧乏生活。
「♪~。」
 風呂場から何かを歌う声が聞こえる。特に上手くもない歌声。どちらかと言うとヘタクソ。
 なぜ私はこの人の娘として生まれてきてしまったのだろうか?と自分をいつも呪う。

「相談?」
 担任の山路先生は目を丸くしてこちらを見ている。
「なんだ。」
「・・・今ここで言うのはちょっと。」
 普段話しかけない自分がいきなり『相談』なんて言ったので山路先生はとても驚いていた。こっちも自分の事で相談するなんて恥ずかしいが、進路の事だし、いつかは話さなければいけない事なのだと言い聞かせた。
「じゃあ進路指導室に放課後来なさい。」
「はい。」
 けれど父の事を話さなければいけないのはやっぱり気が引ける。

 放課後。
 進路指導室に行くと山路先生がすでに座って待っていた。
「座って。」
 促され、パイプイスに座る。
「お前が相談なんて珍しいな。」
「あの、進路の事なんですけど。」
「どこの高校にするかか?」
「・・・はい。」
「今の成績ならどこでも大丈夫だろ。」
 先生が当たり前のように言ってくる。
「あの、勉強と言うか・・・お金の事なんですけど。」
 この言葉に先生は真剣な表情になった。
 父の事。
 離婚の事。
 頼れる親戚などはいない事。
 高校には進学したい事。
 自分なりに丁寧に説明したつもりだった。
「分かった。じゃあ、とりあえず特待生狙いだな。ちょっと待ってろ。」
 話を終えると先生はそう言って指導室から出ていった。
 特待生――――。

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