小説

『赤ずきん』小町蘭(『赤ずきんちゃん』)

 猟師が狼の話をすると二人の母親は気ちがいのように我が子を抱きしめ接吻を浴びせました。
「苦しいわ、お母さん。それより私達とてもお腹が空いているの。お祭りのプレッツェルと腸詰を食べさせてちょうだい」
「お食べ、うんとお食べ! 母さんは今からケーキを焼いてあげるよ」
 赤ずきんとフリッツはお祭りに戻ってプレッツェルと腸詰を頂きました。
「フリッツ、今日のあなたはとても勇敢だったわ。私はあなたに本当に感謝しているの。どうもありがとう」
 フリッツは顔を赤らめてやはり照れ臭そうに笑いました。
「ところでフリッツ、私はあなたにもう一つ言うことを見つけたわ」
 フリッツは今せっかく赤ずきんに褒めてもらえたのにまたお説教を言われるのだと思うと泣きたくなるような心地でした。しかし赤ずきんの言ったことはお説教なんてものではありませんでした。赤ずきんはこう言ったのです。
「大きくなったら私と結婚してちょうだい」
「へっ⁉︎」
 この時のフリッツの気持ちは滅茶苦茶なものでとても言い表わせるものではありません。なぜならこの言葉はいつかフリッツが赤ずきんに言いたかったものなのですから。興奮したフリッツは大きな声で言いました。
「もちろんさ!」
「よかったわ」
「でもそういうことは男の方から言うものだよ」
「ふふ。私は生まれながらのフェミニストらしいの。男女同等。フェミニストならこれくらいでなきゃ」
 この約束は十数年後にちゃんと果たされました。でも今ではフリッツがしっかりと赤ずきんをその腕の中で大事に守っています。二人は結婚して双子の男の子と女の子の親になりました。そして家族四人幸せに暮らしました。

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