小説

『ポンポコポコポコカグヤヒコ』義若ユウスケ(『竹取物語』)

「それは、とってもちいさい島なんだ。メロン島という名前で、名前のとおり、メロンみたいな形をしているのさ。ほんとうに、地図にも載ってないくらいちいさな島だから、住人はふたりだけ。美しい少年と可憐な少女が、たったふたりで、魚を釣ったり鳥をとったりしながらささやかに暮らしている。さて、昨夜のことだ。ぼくははじめて、このメロン島のふたりと言葉をかわした。まず、いつものようにゆっくりと島の上空を行きすぎようとしていたぼくにむかって、少年のほうが『おーい』と声をかけたんだ。『なんだーい』とぼくはこたえた。すると少年は、かたわらに立つ少女を指さして、『この子が星をほしがってるんだあ。お月さーん、ひとつでいいから、とびっきりにきれいな星を、この島のうえに落としておくれよお』そういった。いや、おどろいたな。ちかごろの人間ときたら、夜空に光り輝くこのぼくにむかって平気でそんななめたことをいうのだから、まったく、あいた口がふさがらないったらありゃしない。ぼくはこの無礼にあんまり腹がたったもんだから、下界からあほみたいにキラキラした瞳で見つめてくるこの少年少女をめっちゃ無視してわが行進をずんずんつづけた。ハハッ。やつら、はやく星をくれだとかけちんぼだとか、ずーっといろいろわめいてたけどね、ぜーんぶ無視して夜空のかなたに消えてやったよ。ざまーみろってんだ。ハッハッハッハッハ。ハハハハハハハハハハハハハハハ」
 それで、月の話はおしまいだった。月は高笑いしながら雲のむこうへ消えていった。おれは視線を感じて、モモ子のほうに顔をむけた。彼女は勝ち誇ったような表情でおれを見ていた。
「どう? これが琵琶湖の夜よ」とモモ子はいった。
「ベリーグッド」とおれはこたえた。
 どこかで、フクロウが鳴きだした。まるで、ただいまのお月様のお話はまことに素晴らしゅうございました、では、次はわたくしがお話しましょう、とでもいうように、オホンとひとつ、せきばらいをして。

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