「殻は自分を守るためのものであり、世界との隔たりです。その境界によって、我々はそれぞれが別個のものとして存在しているのだそうです。それゆえに、時にはすれ違いも生じます。まさしく、あなたが自らの悲しみを不遇と憂い、私を羨んだように。しかし、その殻があるからこそ、あなたはあなたでいられるのです。私は私でいられるのです。それは、とても素晴らしいことではありませんか?」
デンデンムシは、それこそ天と地がひっくり返ったような思いでした。
しかし、ちょうど空から大きな雨粒が次々と落ち始めたことで、やはり天は天にあり、地は地にあることを知りました。そして、決して交わることのない遠い遠い地平線という境界を眺めて、天があるからこそ地があり、地があるからこそ天があるのだということも知りました。それは、お日様や、雲や、山や、花々も同じなのです。殻を持たないデンデンムシや、お友達のデンデンムシや、自分も同じなのです。
それは悲しいことなどではなく、確かに素晴らしいことであるように思えました。
「ああ、世界というのは、こんなにも美しいものだったのですね」
デンデンムシは、陽射しと共に降り注ぐ激しい雨を眺めながら言いました。
「ええ。それに今日はとても良い天気です」
殻を持たないデンデンムシも、空を見上げらながら答えました。
それから、殻を持たないデンデンムシは、デンデンムシの方を向いて言いました。
「私はそろそろ行かなければなりません。日が暮れる前に帰らなければならないのです」
お日様はまだ高い位置にありましたが、殻を持たないデンデンムシの足の速さでは、どうしても時間がかかってしまうのです。そしてそれは、デンデンムシもまた同じでした。
デンデンムシは、殻を持たないデンデンムシに言いました。
「今日はあなたにお会いできてよかったです。姿は違うけれど、あなたのことは友達と思えます」
すると、殻を持たないデンデンムシは答えました。
「それは光栄です。私の方こそ、お会いできてよかったと思います。あなたの悲しみが、癒えるといいですね」
「ありがとうございます」
言いながら、デンデンムシは、自分が何をそんなに悲しく思っていたのか、今さらながらに不思議に思いました。
デンデンムシと殻を持たないデンデンムシは、虹を優しく撫でるように角を振り合って、それぞれの帰路につきました。
その途中に、デンデンムシは思いました。殻を持たないデンデンムシが言ったように、自分のこの殻の中にも、心というものがつまっているのでしょうか。
ええ、きっとそうであるに決まっています。切り離すことのできない自分の一部なのですから。これほど確かな重みと温かさを与えてくれているのですから。
そう思うと、デンデンムシは、痛みや悲しみさえも含めて、背中の殻のことがとても誇らしく、そして愛おしく思えるのでした。