ふとんを覗き込むとそこでもうあたたかい匂いにあたった。女の子は両方の手先を出して眠っていて、爪を桃色に染めている。口紅が濃い。慣れているのか、と思いながら中へ入ると匂いが濃かった。上瞼が膨らみ、頬も豊かで、カーテンの紅の色が映るほど首は白い。この子はおのずと男を誘う子だ、と手で髪をかきあげた。
急に、ばたばたと床を足裏がこする音が響き、着物の女の声が大きく響いた。こちらです、早くっ早くっ、という声に合わせて、数人の男であろう足音が部屋の外を過ぎていったようだった。
安西はふとんを飛び出し、襖を出て、そっと部屋の外へ出た。奥の部屋に入ろうとする白衣姿の男の背中が4人も見えた。数分もしないうちに全員が部屋に入り、すぐに着物の女性が出てきた。安西の姿を捉えてヒッと驚きの声を上げたがそれに構っていられないと下へ降りていく。安西は部屋のドアを少しだけ開け、男たちが担架を部屋から運び出したのを見た。担架の上には、細く、眠りながらも血色のいい女の子が横たわっている。その顔に、見覚えがあった。数年前有名になったアイドルの子だった。
そっと部屋を出て、奥の部屋を覗くと、女の子のいなくなったふとんの横で、豚のように転がされた腹の出た男が全裸で眠っていた。眠り薬が良く効いているのが分かった。
その部屋を出てみると、そばに離れに通じるような細い廊下がある。
ギシギシと音を立てる床に足を滑らせるように歩き、離れのようなドアを開けた。
途端に、安西は目を見開いた。
そこには、保育園の寝かしつけのようにふとんが何十も並べられていて、そのひとつひとつに若い女の子が眠らされていた。
おそるおそる女の子たちの顔を確認していくと、幼さが残るも世間で知られているアイドルやスポーツ選手ばかりだった。十何人目かで、みほちゃんが眠らされているのを見つけた。スキャンダルとして出そうとしていた顔と同じ、少し幼さのあるみほちゃんだった。
バタバタと足音がして、逃げようと部屋を出たところで着物の女と鉢合わせになった。
「ご覧になられたのですね」
着物の女は安西を見て通りを遮るように立った。
「いや、あぁ、はい」
刺されるのではと思いながら着物の女と目を合わせると、女のほうが少し怯えているようにも見えた。
「僕は、週刊誌の記者をしています」
安西が言うと、女は泣きそうな顔になった。
「この寝かされている女の子たちの中に僕の知り合いがいます。というか、この子たちみんな有名人ばかりですよね、どういうことですか。アンドロイドか似たような子を集めての闇ビジネスですか」
女は黙っている。
「僕はこれを記事にすることだって、女の子たちに打ち明けることだってできる」
女は首を横に振った。
「臓器移植をご存じですか。ips細胞を知っていますか」
「はい。臓器移植に必要な臓器が足りていないのも、ips細胞で生成技術が研究されているのもニュースで見る程度には。豚で人間の臓器を作れるようになったとか」