小説

『スリーピングアイドル』柿沼雅美(『眠れる美女』)

「さきほどマネージャーさんにはお話しさせてもらっていたんですけれども、これですね、これ、2週間後に掲載させていただく予定です」
 これ、と言ってだされたのは、少し粗く映っている私の姿と年配の男性の2ショットだった。50代、いや、60代くらいかもしれない。お金持ちそうな雰囲気のおじさんと、すっぴんに近い顔の私が、ふとんの中で並んで写真に写っていた。私は目を閉じて眠っているようで、両肩があからさまに露出していて、ふとんの下では何も着ていないように見える。
 あまりのショックに声が出ない私に、マネージャーはどういうことか説明しなさい、と言った。
「私じゃないです。これ」
 そう返すので精一杯の私に、マネージャーがため息をつく。
「申し訳ないけど、これは君そのものだよ。化粧はしてないにしろ、3年前くらいの練習生からメンバーになった頃の君そのものだ」
「でも…」
「その頃に、こんなことをしていたのか?だいたいこのオヤジはどこの誰だ?お金目的か?パパ活の先駆けか?こんな写真じゃ親戚のおじさんっていう言い訳もできないぞ」
「私じゃないです」
 だからそういうのは、とマネージャーが言い、私もまた、だから私じゃないんです、と言う。何度も何度も同じやりとりが続く。
「悪いけど僕じゃかばいきれないよ、残念だけどしばらく…」
 活動休止、と言いかけたところで、安西が口を挟んだ。
「これは、君じゃないんだね?みほるん」
 安西を見ると真面目な顔をしていた。このあと何を言われるのか、認めないともっと何か出してくるのか怖い。ほんとうに身に覚えがないからただとにかく怖いだけだ。そんなときに、自分の呼ばれ方が浮ついていてムカついてすらくる。
「みほるんってやめてもらえますか。ファンの方じゃないですよね?飯田さんとかみほさんとかあるんじゃないですかオトナとして」
 私が言うと、なぜかマネージャーがすみません、と安西に謝った。
「ごめんごめん。じゃあもう一度聞くけれど、これはみほさんじゃないんですね?」
 どうしても私には身に覚えがない。
「ないです。これは私じゃないです。ない。」
「そうですか」
 安西はそう言って写真をじっと見て、マネージャーに目をやった。
「さっき、3年前くらいのみほさんじゃないかとおっしゃいました?」
 マネージャーは懐疑的な表情をする。
 「そう、ですね。これは、はい。3年くらい前のみほの顔にそっくりです。今ほど頬がシュッとしていなくて少し丸みがあるところと、あと眉毛ですね、最近は平行に整えてますが、この頃は地眉にカーブが強めにあるんです」
 そんなにちゃんと見てくれていたんだ、と少し驚く。

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