小説

『スリーピングアイドル』柿沼雅美(『眠れる美女』)

 私はマスクを撮ると、安西は、おおっ、と言って覗き込むように私を見た。
 「ほら、やっぱり3年前とは違う。去年とは大差ない。人前に出るようになると女の子は見た目が明らかに変わるんだ」
 「だから写真は私じゃありません」
 「うん。それにまだ違和感はあるんです。この時代に、この写真のようなふとんって使います?昭和の時代のやつですよこれ。畳の部屋のようだし。みほちゃんの部屋ではない、富豪の自宅ではない、どこかの旅館?身動きができない時間に旅館?僕はこの写真はおかしいと思ったんです」
 ですねぇ、とマネージャーが腕を組む。ますますわけが分からなくなってくる。
 「そこで聞いてみたんですよ、富豪に。そうしたら彼、みほちゃんのこと名前も知らないんです。みほちゃんというのは分からないで、いい子がいますよ、と言われて案内されたと」
 「み、店ですか?」
 焦るマネージャーに、私は、知らない知らない何もしてない、と訴える。
 「僕も同じように聞きましたよ。どこの店ですか、って。教えてくれたけれどそんな店ないんですよ、この時代にホームページすらない。マップにもない」
 「じゃあ、一体」
 「聞けば聞くほど謎なんです。都内のあそこにあるけれど、紹介制でないと入れない。それも、あの、みほちゃんの前で言うことでもないんですが、男性機能が無い人でないと認められない」
 はぁ?と思わず声がでる。
 「わけわからないですよね。だから僕、行ってこようと思うんです」
 「どうやってですか?マネージャーとして確認に行きたいところですが、僕はその」
 はいはいはい男性機能健全なんですね、と私が言うと、マネージャーは、はい、と申し訳なさそうに言った。
 「いやいやいやいや、僕だって機能してないわけではないよ。医者にその機能が無いという嘘の診断書を作ってもらいました。だいたい、何か手をだそうものなら店ですぐばれてしまうんだから」
 「じゃあ私も…」
 「いや、みほちゃんはまずいよ」
 「ですよね」
 「もしかしたら悪いけどみほちゃんのこの写真をスキャンダルにするよりももっと大きなネタがあるかもしれない。僕はそれに賭けてみようと思う。協力してくれませんか、と言っても、マネージャーさんにもみほちゃんにもしてもらうことはないんだけれど、一応許可とっておかないと、このご時世訴えられたりしたら大変だし」
 「そういうところ、しっかりしてるんですね」
 「もちろん、うちじゃ根も葉もないことを記事にしたりしないからね。みほちゃんの先輩たちでうちに載った子たちには悪いけど」
 マネージャーがバツの悪そうな顔で安西を見た。
 「じゃ、今日のところはとりあえず解散ということで。また連絡します」
 と安西は悪びれもなく言った。

 
 「たちの悪いいたずらはなさらないでくださいませよ。眠っている女の子の口に指を入れようとなさったりすることもいけませんよ」
 宿の女は安西に言った。

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