小説

『二十二時、八王子駅にて神を待つ』山本マサ(『マッチ売りの少女』)

 一件は大阪住み、二件目は東京住み。一件目の大阪の人には、今東京なんです。交通費ないです。ごめんなさい。と返信して終わり。
 二件目の東京の人は、アイコンがイラストサイトから拾ってきたようなかっこいい男のイラストだった。八王子駅から電車で二、三駅ほど隣の駅の近くにあるお風呂とトイレが別のマンションに住んでいて、Wi-Fiとパソコンがあり、アマゾンプライムとネットフリックスに加入していて、明日の夜までいてくれて問題ないという旨が書かれていた。
 十分のうちにあたしのツイートを見つけて、DMでここまで詳細を書いてくるということは、この文章をコピペして自分好みの神待ちに送っているのだろう。手慣れているのが分かる。神待ち少女に手を差し伸べる玄人。まさしく、神、降臨。あたしは他の神待ちに盗られる前に、すぐに返信した。
『泊めてください。いま八王子駅にいます』
『自力で来れる? 迎えに行こうか?』
『そこらへんよくわからないです。迎えに来てください。北口。マルベリーブリッジにいます』
『迎えに行きます。寒いけど、待っててね』
『お願いします』
 そこまでやり取りをすると、あたしは神待ちツイートを消して、Twitterの通知をオンにする。
 雑踏を気にせず、先ほどのJCを思い出して、ドヤ顔。JCブランドを振りかざすだけのブスよりは、あたしの顔はプチプラコスメ様の力を借りればそこそこ良いのだ。まだまだ若い者には負けない。負けたくない。負けてはいけない。
 迎えに行きます、という心を温めてくれる、優しい文章。短いやり取りに含まれる優しさに、頬が緩む。出会うのが怖いのは、最初だけ。きっとあの子だって、今日を経験すれば、甘やかされること、愛されることの心地よさ、自分の持つ苦しみを黙って聞いてくれる優しさ、それだけではなくお金もくれる神様のありがたみを、一回のセックスで知ることができて、神様達に溺れていくはずだ。
『なにがあったの?』
 通知が鳴り、開きっぱなしのDM欄に新着のメッセージが届く。あたしはその問いに、先ほど起きた出来事か、自分の家出の理由を聞かれているのか一瞬迷い、すぐに後者だと気づいて正直に答える。
『家に帰ると、お父さんが嫌がるんです』
『お母さんは?』
『小学生の時に死んじゃいました』
『大変だね。今、駅に着きました。八王子まで十分くらいです』
 あたしはスマートフォンで時間を確認する。現在、二十二時二十五分。どうにか二十三時のタイムリミットまでには間に合いそうで、ほっと息を吐く。
 補導されると面倒くさい。更に、神待ちをしていたことがバレると、もっと面倒くさい。親からもらった身体を大切にしろとか、知らない人間についていく愚かさや、金銭面の援助や虐待の悩みが問題であれば、支援施設やボランティア団体を紹介するからとお説教が小一時間続き、そして父親に連絡が行き、愛想笑いの父親がやってきて、家に帰ってからビンタされ、怒鳴りつけられる。一番最悪なパターン。お巡りさんの、最後に見せるやり切った感がにじみ出ている笑顔が、たまらなくムカつく。

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