「自分は、まだまだです。本当に勝ちたい相手に、まだ勝てていません。」
「熊澤君でもまだ勝ててない相手がいると。それは何という選手ですか?」
「すいません。それは言えないです、でも必ず勝ちます。」
優勝した翌日の放課後、私は久しぶりに熊澤に話かけられた。
「優勝した。勝負を受けてもらいたい。」
本当に武士のようにしゃべる男だなと私は感じた。しかしどこか、照れているのを隠しているようにも感じる。
「わかった」
私と熊澤は、誰もいない教室を探し、腕相撲をするため、向かいあって席についた。
熊澤はまっすぐ私を見つめている。久しぶりに熊澤と話し、わたしは緊張していた。
そして、腕相撲をする為に、お互いの手を握りあった。夕日が教室に差し込み、熊澤が輝いて見えた。熊澤の大きな手を握った時、私の心臓は大きく脈打っていた。
「もし俺が勝ったら、告白の返事を聞かせて欲しい。」
熊澤は、力強く私に言った。
「もし負けたら?」
私は、緊張を隠すように言った。
「また、精進する。勝つまで挑ませて欲しい。」
私は、どうしようか迷っていた。なんだか、わざと負けてもいいとさえ感じていた。でもこれで手を抜いたら、強い人が好きだと言っていた熊澤は私の事を軽蔑するかもしれない。
いや、考えすぎだ。前回の勝負とは違い、熊澤は、私が強いことを知っている。だから、全く油断せずに挑んでくるはずだ。インターハイで優勝するくらいの男だ。私になんて勝てるはずだ。それに、もし私が仮に今回の勝負に勝っても、熊澤は、父のようにまた挑んで来てくれる。勝つまで挑ませて欲しいと言った熊澤の言葉が私はとても嬉しかった。
そんな風に、色々な事を考えてるうちに、熊澤が言った。
「それじゃあ、行くよ。華さん、レディー・ゴー!」
またも勝負は一瞬だった。手が机に勢いよくぶつかり、ドンっという大きな音が教室を包んだ。勝負がつき、私と熊澤は目が合うと、なぜだか二人して笑いだしてしまった。
窓から差し込んでいる夕日が二人を優しく包んでいた。