小説

『少女は非力な夢を見る』小田(『金太郎』)

 そう言って、熊澤の肩を大げさに叩いた。まだ、事態が呑み込めていない熊澤は
「お、おう」
 と応答するのがやっとだった。ふと神野君を見ると私ではなく、熊澤を見つめながら、心配そうな顔を浮かべていた。私は少し違和感を感じた。
「大丈夫?」
 私の心配をして、女友達が近寄ってきた。全く何の問題もなかったが、自分に向けられる視線に恥ずかしさを感じた私は
「久しぶりに、腕相撲なんかして、ちょっと痛めたかも。一応保健室行ってくるね」
 と言って教室が落ちつくまで避難することにした。そそくさと教室をでて、廊下に出ると、後ろから声が聞こえた。
「待てよ」
 熊澤だった。どうやら私を追ってきたらしい。私は熊澤に近づいて言った。
「何?」
 私は、廊下の横のクラスが体育で誰もいないことを確認するとぶっきらぼうに言った。
「さっきの、俺は本気だった。でも負けた。」
「単純にアンタが私よりも弱かった。それだけのことでしょ」
「ああ、それは、分かってる。でも、確かに少しの油断はあったかもしれない。でも、それでも、信じられなくて、気付いたら、追いかけてた。何者なんだ?お前。」
 なぜだか、熊澤の瞳はキラキラ輝いているように見える。尊敬する人物を見つめているような目だ。そして、私に柔道選手になれと目を輝かせながら迫ってくる父の瞳に似ていた。
「どうだっていいでしょ。そんな事。あと、女子に向かってお前っていうな」
なぜだか、嫌な予感がした私は、後ろを振り向いて、保健室に向かい再び歩き出した。
「待って」
 熊澤が私を引きとめようと、後ろから手を肩に乗せてきた。私は反射的に熊澤を投げ飛ばしていた。それは、型もへったくれもない、力に任せた単純な背負い投げだった。宙に舞った熊澤は、父と同じように綺麗な受け身を取った。床に這いつくばりながら私を見上げる熊澤は、なぜかさっきよりキラキラした瞳で私を見つめていた。そしてむくりと立ち上がると私に言った。
「華さん、好きだ」
 華、そう、それが私の名前だ。母が、華のように儚げで、美しく生きて欲しいと名付けた。私は、自身の体質にそぐわない名前が嫌いだった。そして私は、突然の熊澤の発言に私は混乱していた。
「はあ???」
 私はすっとんきょな声で答えた。こいつ綺麗な受け身を取っていいたが、頭を強くうったのだろうか。なんで、腕相撲で負け、投げ飛ばされた女子に突然告白してるんだ?てか好きだって、なんだよ。3文字で破壊力強すぎるだろ。
「俺は、強い人が好きだ。それは、男女関係ない。こんな感情は初めてだ。」
 熊澤は、少し顔を赤らめながら力強く言った。

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