いつの間にか立ち止まっていた。週末の喜びに酔った人たちが足早に通り過ぎていく。
取り残されているのは俺だけだ。何もできず、ただ立っているだけ。これまでも。これからも。
視界の端にミズキさんが見える。感情を表に出してしまった後には、気まずさだけが残っていた。
「……すみません。こんなこと、ミズキさんに言ったところでどうしようもないのに」
「いつも、会いたいと思える人はいますか?」
「え?」
質問はあまりに唐突だった。俺が答える間もなく、ミズキさんは言葉を続けた。
「たまに、自分で自分にそんな質問をしてしまうことがあるんです。そうするとね、会いたい人がすぐには浮かんでこないんですよ。で、考えちゃうんです。どうして生きてるのかなって」
「それは……自分のため、じゃだめなんですか?」
「だめなんです。私が欲しいものは全部、私ひとりじゃ手に入らないものばかりだから。どうしてラブストーリーやラブソングが作られ続けるのか、私には分かる。誰もが求めずにはいられないものって、きっとあると思うんです」
ひとりでは手に入らないもの。たぶん俺も、かつては持っていたものだ。
「だから、誰かと繋がりのある人が羨ましい。この仕事をしているのも、どこかで人との繋がりを求めていたからかもしれません」
「…………」
「あ、繋がりって物理的にじゃないですよ?」
「分かってますよ……」
ミズキさんは小さく笑った。
「で、聞いてみたんです。いつも会いたいと思える人はいますか?」
「います」
驚くほど早く、答えが口をついて出た。
「それで充分ですよ。それで充分……生きていける」
二週間後のその日も、いつもと同じ金曜日のはずだった。五反田のホテルでミズキさんと会い、いつもの時間を過ごす――けれどその日、部屋に着くなりかかってきた電話で、ミズキさんは明らかに動揺していた。
「ええ……あの、私はどうすれば」
しきりに電話の相手に何かを確認している。俺はどうすることもできず、手持ち無沙汰にスマホをいじっていた。
しばらくするとミズキさんは電話を切り、こちらに向き直った。
「あの、すみません、本当に申し訳ないのですが、今日はキャンセルとさせていただけないでしょうか」
突然の申し出ではあったものの、電話の様子から何かが起きていることは簡単に推測できた。
「何かあったんですか?」
「いえ、ちょっとお店の方でトラブルがあったみたいで……仕事は全部、今すぐキャンセル対応しろと連絡が」
気にはなるものの、あまり立ち入って聞くのも申し訳ない。受け入れるしかないようだった。
「やむを得ない事情のようですし、大丈夫ですよ。じゃあ、また来週」
「いえあの……たぶん、もう無理かもしれません」
「え?」
ミズキさんの言っている意味が分からず立ち尽くしてしまう。しばらく黙っていたものの、俺の視線に降参したようにミズキさんは話し出した。