小説

『デーモン笹ケ瀬の左眼の世界は』もりまりこ(『桃太郎』)

 なんとなくシミュレーション。鬼の中心にある重心を、ふたりがかりでつかまえもって、ばこんって。ばこんってどうすんの?いややで、ころさへんころさへん。うまくシミュレーションできへんでいたら、
「うなぎと鬼っすか。おもしろいバトルっすね。スライムみたいな鬼やったらいけそうだけど。その鬼って、なんかわるいことしたんすか?っていまごろから気になってます。で、ぼくこんな頭してても平和主義なんでやっぱりなんていうか、来れなかった木地君の代わりにチーム桃太郎に鬼さんも、カモーンジョイナスってなことにするってプランを考えてたんですよ」
 うわ。みんなすごい。俺の家来君たちみんな鬼とどうかかわるかのビジョンを持ってはる。
「そやなそやな。木地君の桃、春日局もあと1個余っとるしね」
 てなこといいながら、3人は目的地の倉庫にたどりつけずに迷い続けていた。ぜったいたどり着くよ。と希望は捨てていなかった。左眼だけになってる鬼がそこにいると信じてる。みえないぶぶんはもともとなかったばしょではない、まぎれもなく存在しているはずなのだと。

 この逢魔が時が時を進めて、ほとんど黒い闇に包まれる。まだここをだれも訪れてくれないデーモン笹ケ瀬は、桃太郎達が今日こそは訪れてくれることを信じてじっと待っていた。彼らを待ち続けて何年経っただろう。
 左目だけでものをみるようになったデーモンは、ただただ世界がこの世から半分消えてしまったみたいで寂しかった。誰かと話がしたかったのだ。声を発してみたかった。倉庫の窓からは運河が見える。今日そこに確かに、桃が流れ着いたのだ。なにかの予兆のように流れ着いた。その桃をデーモンは大事にとっておいた。まだあたらしいから、彼らと分け合えるかもしれないと思いつつ。待ちすぎてどうにかなりそうなぐらい、デーモン笹ケ瀬は外の気配に耳を澄ませていた。遠くで彼らが喋っている声が聞こえた気がしたので、デーモン笹ケ瀬は、アイパッチがずれていないかを確かめるために久しぶりに鏡の前に立っていた。

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