シンデレラは慌てて「大変!」と言うと、螺旋状の階段を登っていった。
残されたニキはぽかんとする。
どういうこと?今日が舞踏会?
今の声はサシャ姉さん?
一体何が起こっているの?
「過去に来たのさ」
突如、見知らぬ声がした。
振り返ると、そこには猫のルーク1匹しかいない。
けれど二キには、その言葉がルークが発したものだとすぐに分かった。
だってルークは二本足で立って、両手を頭の後ろに組み、栗かぼちゃを片足でコロコロと転がせているのだ。まるで人間のように。
「全く。なんで付いてきちゃうんだよ」
ルークは栗かぼちゃを足の甲でポーンと器用に蹴り上げた。
それはニキの手元に丁度良く収まった。
「きっかり6時間で元の世界に戻る。それまでは、大人しくしててくれよ」
開いた口が塞がらない、とはまさにこのことだ。
「ちょっと、このドレスの丈、短かすぎない?」
「若いんだから、大丈夫よ。ねぇ、それよりシンデレラ。もっとキツくコルセットを締めてよ」
「これが限界です」
そうっとドアの隙間なから衣装部屋を覗くと、そこにはサシャとシンデレラ、そしてニキがいた。
数ヶ月前のニキは、掃除をする係ではなく、自由を謳歌し暇を持て余している姿そのものだ。
髪は綺麗に結われ、化粧もばっちり。唇には、赤いリップがツヤツヤと光っている。
それはサシャも同じだった。
「数ヵ月後にはシンデレラに下克上されるとも知らず、威張り散らしてやがる。サシャもお前も、滑稽だねぇ」
ルークは小馬鹿にした笑みを浮かべて言った。
「何よ。こんなの、今すぐ私がここで未来を暴露して、シンデレラが今度こそ舞踏会に行けないようにしてやるわ」
ニキがそう言って鼻息荒く中に入ろうとすると、ルークが慌てて止めた。
「馬鹿、馬鹿。そんなことしたらお前がいなくなっちゃうぞ」
「どういうこと?」
「過去を変えてはいけないんだ。」
ルークはニキの頭を押さえつけて、小声で、しかしはっきりと言った。
「過去を変えたものは、変えた瞬間、神さまに別の生き物に変えられる。その後は神さまにコキ使われて、神さまの気が済むまで働かせられるのさ」
眉をひそめてルークは続ける。