ニキはモップを持ったまま、慌ててルークを追いかけた。
この家の扉には、猫用の小さな扉が付けられている。
それ故に、ルークはカボチャと共に部屋から部屋へ、どんどんと逃げていく。
ニキはその度にドアノブをがちゃんと回して扉を開け放った。
がちゃん、がちゃん。
「待ってよ、ルーク」
がちゃん、がちゃん。
走り過ぎと扉の開けすぎで、段々と自分が今どこにいるのか分からなくなってくる。
がちゃん。
そうしてニキが、6つ目の扉を開けた時。
ボーン、と柱時計の鳴る音がした。
時刻は正午0時だ。
そのとき突然、すってーん、とニキは豪快に転んだ。
床が水浸しだったのである。
ニキが転んだ弾みで、入ってきた扉はバタン!と大きな音を立てて閉まった。
「いったぁい。何?この床?私まだここは掃除してない…」
ニキはお尻を擦りながら、前を見て、「わっ!」と再び尻餅をついた。
今度は滑ったからではない。
目の前の光景に、驚いたからだ。
「姉さん?こんな所で何してるの?」
そこにいたのは、シンデレラだった。
数ヶ月前、王子と結婚し家を出て行ったはずの彼女が、そこにいた。
「シンデレラ?お前こそ、こんなところで何をしているのよ」
「何って、掃除よ。姉さんこそ、今日はお城で舞踏会があるからってさっきまで衣装部屋に大姉さんと籠ってたじゃ…」
そこで、シンデレラの声を遮るように、サシャの声がした。
「シンデレラ?ちょっとこっちへ来なさーい!」