「ああ、そういうのはいいんで。結局、新卒で就職できなかったってことは、何かあなたに問題があったってことでしょう。違います?」
痛いところを突かれ、答えに詰まる。手垢でページが黒ずむほど読み込んだ面接本の内容も、あっという間に消し飛んでしまう。
何か答えなくては、と目線を面接官から逸らすと、窓際で熱心に花瓶を見つめる爺さんが目に入る。どうやら、生けられている花に元気がないらしい。爺さんは腰から例の粉を取り出すと、くったりと萎れた花に振りかけた。見る見るうちに花は鮮やかな色を取り戻す。
綺麗だな。そんなことをぼんやりと考えていると、面接官から尖った言葉を浴びせられる。
「答えられない、ということでいいでしょうか?」
反論できずに黙り込むと、面接官は嘲るような笑みを浮かべた。脂ぎった鼻の穴がピクピクと動いている。
「最近多いんですよね、就活に失敗してフリーターになる人。まあ応募してきた以上、面接はしますけど。うちも、役に立たない人を雇う余裕はないんですよ」
他の二人の面接官は、俺など眼中にないとでもいうように手元の書類ばかりを眺めている。
それはそうだ。俺が面接官だったら、俺みたいな奴を雇おうとは思わない。それでも、この世の中に必要とされていないという事実を再確認させられているようで、胸が苦しい。目元が熱くなってくる。
もう帰ってしまおうか。そう思った時だった。今まで窓際で花の世話をしていたはずの爺さんが、俺を追い詰めていた面接官の後ろに立っていた。爺さんは真っ赤な顔をして、灰色の粉を掴んだ。やめろ、と止める暇もなく、爺さんは面接官の薄くなった頭の上に粉をばらまいた。
とても美しい花々が、不毛の大地に咲き乱れた。
「じゃあ、乾杯」
チン、と寂しげな音が煙たい個室に響く。爺さんは俯いたままだが、焼き鳥を口に運ぶ手は止めない。
あの後、面接官たちがパニックになっている間に、俺は爺さんを連れて面接会場を飛び出した。まだ面接結果を知らせるメールは届いていないが、どう考えてもダメだろう。
それでも不思議と落ち込んではいない。面接官が嫌な奴だったのもそうだが、何より爺さんが小さな仕返しをしてくれたおかげで、胸がスッとしている。そのお礼も兼ねて、爺さんを行きつけの居酒屋に連れてきたのだった。
爺さんはつくねが気に入ったのか、もう3本は平らげている。今は透明の能力を解除しているから、はたから見たら随分大食いの爺さんだろう。
「どうして、さっきは俺のために怒ってくれたんですか?」
爺さんが4本目のつくねを胃に収めたところで聞いてみる。爺さんは箸を置くと、テーブルのシミを見つめながら、ポツポツと話し始めた。
「……わしも、同じようなことを言われたことがあったんじゃよ」
「神様も?」
爺さんはすっかり泡のなくなったビールをぐいっと飲み干した。
「わしは、植物を司る神なんじゃ。昨日、ちょこっと見せたじゃろ。あんな風に花を咲かせたり、植物の成長を早めたりするのが仕事でな」