格好良くは分かる。そのために努力しているのだ。
「そしてあんたの『ヤリたい』ってのは欲望ね。そのために努力するのは悪いことじゃない。だけど途中でやめたらなんの意味もないわ。大切なのは“継続”よ。」
確かに。即席では今の自分は作れなかった。
―――――そしてまた半年がたった。
一流大学とまではいかなくても、まあまあ名のある大学へと進学が決まり、あとは卒業を待つだけとなった。
「まあ、こんなもんだろ。」
リビングで姉二人と雅和さんの前に立たされ、京子姉さんが一言言った。その顔は満足そうな表情を浮かべている。それはつまり合格点を貰ったと思っていい。かなり嬉しい。
「そう?まだ甘い。」
玲子姉さんが横から口を挟む。
「ちょっと待ってよ。自分でもかなり努力したつもりだけど。」
「お、一丁前に口答えするようになった。」
「それも玲子姉さんのおかげでしょ。」
と、柔らかい笑顔で返答する。
「おお!あの根暗だった零士が私に微笑みかけた!この一年はでかいね。」
「感謝してるよ。本当にありがとう、姉さん達のおかげだよ。」
ともう一度優しく微笑む。その余裕のある返答に、玲子姉さんと京子姉さんは顔を見合わせ驚いた表情をしている。よほど意外な返答だったのだろう。
「確かに格好良くなったよね。初めて会った時とは雲泥の差だよ。」
雅和さんが褒めてくれた。確かに自分でもたった一年でこうも変わるのかと驚いている。
「零士、最初に京ちゃんが“お前はイカロスだ”って言ったのを覚えてる?」
玲子姉さんが聞いてくる。もちろん覚えている。
「あの物語は大きく三つの教訓があるのよ。一つは作った翼で“空を飛ぶ”という一歩踏み出す勇気。そしてもう一つは“あんまり調子こくなよ”っていう教訓があるのよ。」
「調子こく?」
「そう、イカロスは自由に空を飛べる事をいいことに、近づいちゃいけない太陽に近づいたの。飛べた自分に自信がついて、もっと高く飛ぼうと“調子こいた”んだね、固めてあった蝋が溶けて翼がバラバラになった。そしてイカロスは無残にも海へと落ちていった。」
「なるほど。」
「そして最後の一つ。これが重要。」
玲子姉さんが真剣な顔つきで人差し指を立てる。
「何?」
「トレーニングを始める時に言ったけど“翼作り”よ。蝋燭の溶けた蝋で鳥の羽を固めて翼を作るのは超めんどくさい作業でしょ。だけどイカロスはその気の遠くなるような作業を、空を飛んで牢屋を抜け出す事を夢見て毎日毎日頑張ったのよ。言ってみれば“飛び立つ”ための準備ね、これが重要。」
「確かに。」
そして玲子姉さん勢いよく立ち上がった。