小説

『飛び立つという事。』鷹村仁(『イカロス』)

「いい、よく聞きなさい!大切なのは『一歩踏み出す勇気』『目的達成のための準備』『調子こかない警戒心』これでしょ!」
高らかに言い切る玲子姉さん。京子姉さんと雅和さんが小さな拍手を送る。そう言われると自分もイカロスのように生活してきたのかもしれない。あとは大学生になって“飛び立つ”のみだ。
「・・・。」
しかし正直なところかなり“怖い”。今までは練習だったけど、今度からは本番なのだ。自分の行動でどんなリアクションされるのか分からないし、もしかしたら自分のしている事で女性に嫌われてしまうかもしれない。まだ何も起こっていないのに漠然とした不安が次々と襲ってくる。
「何?何か不安なの?」
 黙っていると、雅和さんがこちらの心を見透かすように問いかけてくる。
「まあちょっと、色々想像するとね。」
「それは誰でもそうだよ。飛び立つ時はみんな不安で怖いんだ。イカロスだって怖かったと思うよ。」
「・・・。」
「準備は充分したんだから自信をもって。今の零士君ならきっとモテると思う。でもちゃんと分かってて欲しいのは、そこには必ず失敗があるし、でもその経験は必ずするものだから気にする事はないって事。」
「・・・分かった。」
「それに“調子こいて”太陽に近すぎ過ぎたら僕と姉さん達が注意するよ。」
 雅和さんは悪戯っぽく微笑みかける。聞いていた姉さん二人もその言葉に頷く。
「だから、頑張って。」
「そうだ、頑張れ。」
「お前は頑張った。」
 雅和さんに続いて、玲子姉さんも京子姉さんも笑顔で応援してくれた。
「うん、ありがとう。頑張る。」
 僕は素直に頷いた。
『モテたいヤリたい』で始まったトレーニングだったけれど、『変わりたい』と思って本当に良かった。

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