小説

『アプリ越しの愛』星野梨音(『痴人の愛』)

 私は耐えれなくなって教室から出ようと思いましたが、パオラバを勉強した以上授業を真面目に受けないことには格好がつきません。パオラバを勉強するということは、それについて詳しくなるだけでなく、おそらく学ぶ姿勢やその思考回路について習得することでもあるのです。私はそう考えています。私は、教授の話を色分けしてノートにとり、授業が終わるとそそくさと教室の後ろのドアに向かいました。芽生たちは、私に気がつきません。それほどまでに、私は化粧の仕方や流行のファッションを忘れてしまっていたようです。

 なぜだかいきなり人が増えた教室の中で、天井に届きそうな勢いでその中から伸ばされた一本の白い腕がありました。その手の周りに、男子たちが集まっています。皆、どこかしらに私の好きなブランドのファッションを取り入れており、鈴木くんに似ていなくもありません。「怜央~!」と彼らが鈴木くんに呼びかける声が聞こえます。腕まくりされた先にある手は、神々しい光を発しており、私はそれを見て眩暈を起こしかけます。その手はだんだんと近づいていて、私の目の前で停止しました。
「君もカラオケ来る?今からこのクラスの奴らでカラオケ行くんだけど。」
 1年前の私なら、初対面の人の誘いにでも愛想良く乗ったことでしょう。しかし、今の私は頭がぼうっとしてしまって、早くその教室から出ることしか考えられません。動くに動けずその場に固まっていると、何も言わない私の元から去って行った光を放つ手が、芽生の肩を抱きました。私は、前髪で顔を隠すようにして必死で出口へ向かいました。あの手に触れるために、早く家に帰ってするべきことが沢山ありますから。

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