小説

『六徳三猫士・結成ノ巻』ヰ尺青十(『東の方へ行く者、蕪を娶ぎて子を生む語:今昔物語集巻廿六第二話』『桃太郎』)

「ようし、もう、ねえ、つまり、あれだよ、おれたち、サンビョウシってことだな、三猫士」ヒック。
 河岸を代えて雉ノ又が気炎を吐く。シャンパンの酔いというのは格別で、どんな泣き上戸も陽気にしてしまう力がある。
 確認したところ、三人こぞって六徳を備えた上猫たることが判明して寿ぐべし。酒がすいすいと入るわい。
「エス・イスト・グート!」
 犬丸完人、急に独逸語を叫んで、
「もうねえ、こうなったらねえ、ナチュアリッヒ、天誅しか無いじゃないですか、ねえ同志」ゲップ。
 魔羅丘の老舗饂飩屋・金田七(きんだしち)を討つべしというのだ。この店、メニュウは代々〈鬼釜饂飩〉一本槍で、ぐらぐら煮立った鉄鍋で饂飩がワラワラ踊っているの卓上コンロに乗せて出す。つけ汁も同じく煮立って、予熱された分厚い丼で来るから冷める隙が無い。無論、極塩辛口で、饂飩の生地、茹で汁・つけ汁の全てに塩分が高い。究極の鬼族御用達料理だ。
 犬丸が減塩指導に赴いたところ、店主、パンフを食いちぎり、
「こちとら、ちゃきちゃきの魔羅丘っ子、塩が怖くて饂飩が喰えるかってんだ、おととい来やがれ」
 みたいなことを魔羅丘弁で喚く。茹で汁を浴びせられ塩まで撒かれ、犬はしっぽを丸めて退散した。
 以来、復讐を誓って計画を立てていたのだ。明朝、開店前に店を襲撃して卓上コンロを破壊、塩・醤油の類は撤去し、つけ汁は水で薄めてドライアイスを投入してくれようぞ。
「おれも行く、同志、いや猫士」雉がゴクリ呑む。
「お供させください、猫丸さん、いや、犬丸さん」猿がガブリ干す。
 三猫士は固めの盃を交わして宴を続け、戦果を夢想しつつ6本半を空にした。

【翌日】
「パパ、これ、どうしたの?」
「うむ、あの、オタネサマかな」
 デタラメ言って胡麻化そうとするも、寝小便なのは小学生にも一目瞭然で、父の面目丸つぶれ。猿は股間を濡らして沽券を下げた。
 雉は明け方、持病の痛風発作に見舞われて救急病院に担ぎ込まれたままだし、犬は留置場で目が覚めた。
「一日5グラム、イエーイ、ファイヴ・グラムズ・ア・デイ!」なぞ、酩酊して警官に説教しているところをぶち込まれたのだ。
 そろそろ11時、角刈りの胡麻塩頭が出て来て暖簾を掛ける。柏手打って『金田七』を拝むや、今日もいっちょう、やったるで。ガツンと濃くてキッチリ熱いの。店主、誓いも新たに、ねじり鉢巻しっかと締めた。

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