小説

『六徳三猫士・結成ノ巻』ヰ尺青十(『東の方へ行く者、蕪を娶ぎて子を生む語:今昔物語集巻廿六第二話』『桃太郎』)

【昔々】
・・・なので、その子は桃太郎と名づけられましたとさ。

「おおっと、そりゃあ、てーへんだ」
「なんだ、なんだ、どしたい、熊さん」
「おお、八っつぁん。ちょいと訊くがな、お前さん、何から産まれなすった」
「おふくろさんに決まってらあな、べらぼうめぇ」
「よし、おめえは今日から袋太郎に決まった」
「はぁ、そうかい。で、熊公、おめえはどうなんでい」
「決まってらあね、お袋さんよ」
「そんなら、てめえも袋太郎ってこった」
「はっはっは、気があうねえ、兄弟」
 おめでたい二人が盛り上がってるところへ、俳諧師の久保田が通りかかった。
「おっ、こりゃあ久保田の先生、どうですかい、発句(ほっく)の方は」
「うむ、おっほん、『湯豆腐やー いのちのはての うすあかり』久保田万太郎」
「こりゃあ一本とられた、〈マン太郎〉たあ、ちげえねえ、恐れ入谷の鬼子母神ときたもんだ」
「??」
 かくて、世の男どもはみーんな同じ名前になりましたとさ。
 おあとがよろしいようで。

 否、否、否、否、イナバウアー!
 断じてそのようなことは無い。
 なので件の婆と爺もまた、桃太郎なんて名にはしなかったのじゃ。
 て、ゆうか、拾ってきたのは蕪(かぶら)、練り絹のように白い肌をした大きな大きな蕪であった。
 切ってみたけど赤子なんか入ってるわけも無くて、真っ白い蕪の身ばかり。ただ、どういうわけか、直径約4.7センチメートルの穴がトンネル状にあいている。
 それをサラダにした。
「婆さんや、この蕪、なんだか生臭いのう」
 後期高齢者の爺は箸が進まない。
「なんの、滋味豊かで美味しいじゃありませんか」
 前期高齢者の婆は美味そうにショリショリ、爺の残した分まですっかりと平らげてしまった。
 時を経ずして婆の身に異変が起こる。

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