「ちきしょぉー! だからって丸焼きはねぇだろう! もうこうなったら俺を食いやがれ! 残さず食いやがれ! 草食主義が何だって言うんだ、今間で食われてきた奴らに責めてもの慰めってか?! そんな言い訳なんて聞きたかねぇ! 残さず食いやがれ! 生きる為に食いやがれ! 人間を食った俺を食いやがれー!」
怒り心頭で叫び続ける焼き豚。もうプチトマトが揺れ飛んで、パセリの上をコロコロと転がり続ける。
飛び跳ねる焼き豚の頭を、卓下から覗き見ているモモちゃんは冷ややかに鼻をクンクンと利かせて見ているだけ。その姿を豚は気付いて睨み返した。
「あっ! こんな所に本物の畜生がいやがった! 俺を食いやがれ畜生! 何も考えずドライフードなんて食わずに俺を食いやがれ!」
「ああダメだよ、モモちゃん!」
煽る豚に焦って私は慌ててモモちゃんを抱きかかえて卓から引き離した。
そうすると私の胸元で急にモモちゃんが唸りだした。引き離した事に怒りだしたのかと思ったが、それが違うと直ぐに分かった。
遠くから大きな音が聞こえ始めていたのだ。それにモモちゃんが反応していた。
ドーン、ドーンと。
規則的な地鳴り。耳だけでなく足裏にも痺れた振動を感じとる。とてもとても大きな足音に聞こえた。
「あー来やがった! 遂に来やがった! ヤバい! ヤバいよ!」と焼き豚が急に狼狽え始めた。
「えっ? 一体、何が来るの?」
「食われる! 食われちまう! やっぱヤダ! 俺はやっぱり食われたくないよー!」
泣き叫ぶ焼き豚を見て、私も吊られて動揺し始めた。その間にも足音はどんどんと近づいて来る。
ドーン、ドドーンと。
もう直ぐそこまで何かが近づいて来たと感じた時、私はモモちゃんを抱えたままに走り出していた。
何が来たのか見る興味も湧かず、大きな足音だけで身の危険を感じたから。
それが向かってくる逆方向に、また口を開く森の入口へと一直線に。
逃げながら後ろを振り向く。あの豚の頭が泣き叫びながら跳ねるのが見えた。
どうにも出来ない。助けたい気持ちに胸を潰される。