「息苦しくないかい? 体の痛い部分は分かるかな?」
優しくて力強い話し方の男性の衣服はオレンジ色。この人はレスキュー隊員なんだと分かった。
「――一端、外に出ろ! 瓦礫を持ち上げる!」
「このまま、このまま! 僕はこのまま彼女の側にいます!」
外界からの指示に彼はそう答え、天井の壁が動くまでスポイドボトルで私に水を飲ませながらずっと側にいてくれた。
程なくして上から圧力を感じなると私は挟まれた状態から引っ張り出される。抱きかかえられ大量の瓦礫の上から周囲を見廻すと沢山の拍手が贈られてきた。
迷彩服の方や警察官らしき紺色の服の方も。レスキュー隊員に横抱きされてる私に向け歓声と供に拍手をしている。
ただ呆然とするしかない私。そのままヘリコプターへと乗せられていった。
病院へと搬送され怪我の状態が落ち着いた頃、私の現状を少しずつ聞かされた。
大地震によって地面が液状化して私達のマンションが倒壊した事。
両親を含め住民の殆どが亡くなった事や。
聞かされ悲しみよりもただ脱力感で茫然自失の私。
そんなおり私を助けてくれた隊員の方が見舞いに来てくれた。埋まっていた私を見つけた経緯と届け物をしてくれた。
渡されたのはあのウサギの目覚まし時計。君の体に隠れて有ったから。
もう生存が絶望視され、ただ遺体を一つ一つと数えるしかない現場。
そんな中、地面の下から犬の鳴き声を何人もの隊員が聞いたと。
全員が色めき立ち、せめてでも小さな命を救おうと捜索し始めて君を発見したのだと。
残念ながら犬は発見されなかった。君の犬だったのかな? そう訊かれて私は無言で頷き返すしかなかった。
声の正体は私には分かった。
このウサギの目覚まし時計には、普通のベル音の他に録音した音を目覚まし音として使える。
その時一ヶ月前に病死してしまったモモちゃんの声を、私は録音して使っていたのだ。
でも何故鳴ったのかは私にも分からない。
でも確かなのは。
あの不可解な世界でも今の現世でも、助けてくれたのはモモちゃんだ。
ありがとうね、モモちゃん。