見る見る遠くへと行ってしまうモモちゃん。痛みを堪えて追い掛けようと私は立ち上がる。
すると背後からまた聞き覚えある声が――。
「さあ、もう時間だ! 君の時間を向かえた! こっちだよ、こっちにおいで~!」
あのウサギの声だ。振り返ったが姿は見えない。
思わず周囲を見廻していた。その間にもモモちゃんの声がどんどんと遠くなるのは分かっていた。
声が為た方に行くのか。それとも遠ざかる声を追い掛けるのか。
選択肢が浮かんでも私は迷う事はなかった。痛い足を引きずって追い掛け始める。モモちゃんの方へ。
モモちゃんが走っていた先は光に包まれていた。その光の中から吠え声。ううん、私を呼ぶ声がしっかりと聞き取れている。
近づいてゆく度に光は眩く、白く輝きを増していったんだ――。
目覚めた時には真っ暗だった。
僅かに一筋の漏れ光る線だけ。
その線が大きく口開き眩い外光が入って来て、沢山の土埃も舞って私は咳き込んでいたんだ。
外光を影が遮る。誰かが覗いて来ている様に見えた。
「おいっ、君! 生きてるのか!?」
男性の声だった。私に聞いてきているの? 何か声を出そうと思っても、ただゴホゴホと咳き込む事しか出来ない。
入ってくる外光の中から、更に眩しい光源が私を撫でてくる。ライトで照らしているのか。
私を確認を為たのか、ライトが消され影が引っ込むと外界が騒がしくなった。
私は一体どうなっているのだろう。そこで初めて現状を捉え始めていた。
天地にコンクリートの壁が迫って、間に挟まった私は動けなくなっていたんだ。なんでそうなったのかの記憶は全くなかった。
光が外界からだと分かったが、そこから大勢の人の声を聞きとって私の状況を少しずつ理解していった。
ジャッキを持って来い。そこの瓦礫に乗るな。重機は入れるなとか。
緊迫した声だったが何処か心強い声達。
やがて天地の壁の間をジャッキで支え始めると、外界の穴からメット被った男性が這いずって私の側まで来てくれた。