何処か話が噛み合わない気分。側にいたモモちゃんと見合って私は肩を竦めた。
「そういえば貴方は何をやってるの!?」と話し掛けた乳牛が机をドンと叩いて怒鳴ってきた。
「えっ……わ、私は」
「貴方は何かしてるの!? 乳を出してるの!?」
「ま、まだそんな……十三歳になったばかりで……」
「何もしない! 乳も出さない! そんな貴方が存在してる意味あるの!? 生きてる意味あるの!?」
「え……それだけが生きてる意味だなんて……そうは思えないんですけど」
そう答えると机に向かっていた他の乳牛達も私を一斉に睨んできた。
そして立ち上がって声を揃え、高らかに雄叫びを上げる。
「――何かしろ! 乳を出せ! それが私達の生きる道!」
それが合図だった様に乳牛達は何処から取り出したか皆が刺叉を持ち始めた。それを掲げ上げ猪突猛進、私を追い掛け始めたのだ。
様子の急変に吃驚仰天。声を上げる暇もなく、モモちゃんと私は逃げ出していた。
石畳の道をひたすら走る。もう何処へ向かうなんて考えられない。もう逃げるだけ。
先導して身軽に身体の毛を靡かせて走る、モモちゃんを追い掛けるだけで精一杯。
どうかしようなど思考する余裕なんてない。
後ろを振り見れば、あの乳牛達が刺叉を掲げてまだ追い掛けて来る。
息切れ寸前、もう駄目だと足を縺れさせながらも必死に脚を前に出してゆく。
掴まったら何されるか分からない。そう気持ちが焦った瞬間だった。石畳の割れ目に足先を引っ掛けてしまったのは。
勢いよく転んでしまう。肘も膝も硬い石畳にぶつける。情けない悲鳴を上げて地面でのたうち回った。
早く起きなきゃ。痛む肘と膝をさすりながらも上半身を起こす。
先に逃げたと思っていたモモちゃんが立ち止まり振り返っていた。それで目が合ったんだ。
目が合った瞬間、私は心で叫んでいたんだ。先に逃げてって。
でもモモちゃんは。
表情のない筈なのに、意を決した顔を覗かせてから踵を返して乳牛達に向かって行ったんだ。
これでもかって位の吠え声で立ち向かってゆくモモちゃん。その勢いに気圧されてか乳牛達は驚き慌てふためいた。
「きゃー! 何、この犬は!? た、助けて~!!」
周章狼狽。追い掛けられると逃げるのが習性か。乳牛達は慌ててモモちゃんから逃げ始めていた。
退散した乳牛達を逃さず、モモちゃんは吠え声を止めずに追い掛けて行った。