ツイート 時おりカーテンがふわりと揺れるのが気になったので引いてみると、窓が少しだけ開いていた。私はカーテンの隙間から漏れ出た陽射しの中に立ち、ぐるりと部屋の中を見まわした。 薄暗い部屋を照らすように、檸檬の黄色が鮮やかに輝いている。不思議なことに置かれた檸檬のまわりだけが、清浄な空気に取り囲まれているように思えた。 たったひとつの檸檬が、世界を変える。 私は空っぽの部屋の中でひとり、いつまでも檸檬を眺めていた。遠くで風鈴の音が響いていたけれど、蝉の声はもう聴こえなかった。 5/5 前のページ 12月期優秀作品一覧 HOME 1 2 3 4 5