「そんなことはないさ。君の顔は理想的で美しいよ」
「じゃあ、どうして」
「大学生のあの日、ボクは君の声を聞いて、君に惹かれんだよ。そして、その声の持ち主がどんな顔をしているのかが、気になったんだ。さぞ美しい顔をしているんだろうなと思って、その顔をいつか見てみたいと思った。だから君の顔を見ることができたときは、本当に感動したし、君のことを愛している気持ちにウソはないんだ。でも、ずっと見ているうちに、君の顔の美しさに慣れてしまう気持ちが起こるのは、嫌なんだ。見えないからこそ、見たくなるし、見ることができた時に、感動することができるじゃないか」
私はそこまで聞いて、自分から力が抜けるのを感じた。
「秘すれば花、なんて言うじゃないか。君の奥ゆかしいところが、神秘的でボクは一番大好きなんだよ」
その夜、タケチ君が寝てから、私は自分の頭に鉢をかぶせた。不思議と、鉢が外れてしまう気はしなかった。そして翌朝、タケチ君が起きてくるのを待った。
「おはよう」
タケチ君はそう言って、私を見て、それから嬉しそうに言った。
「ツキ子さん、君は本当に素晴らしいよ」