小説

『鉢姫花伝』三号ケイタ(『鉢かつぎ姫』)

 もちろん遊園地でも、頭が遠心力で飛んでいってしまう恐れがあるそうなので、遊園地の目玉ジェットコースターなんてものには乗れなかった。それでも、タケチ君は私を連れ歩いてくれ、私はそうして気を遣ってくれることに対してとても幸福な気持ちだった。最後にと言って、タケチ君と私は観覧車に乗った。
観覧車が上っていくときに、タケチ君は少し寂しそうに言った。
「いつか、ツキ子さんの素顔をしっかり見てみたいものだね」
「ごめんね。鉢が外れないから」
「いいんだよ。ツキ子さんの声から、どんな人なんだろうって考えて過ごしているから。いつかもしもその鉢が外れる時まで、楽しみにしておくよ」
 そうして、タケチ君は私の鉢を斜めにすると、私にキスをした。

 大学生活はあっという間に過ぎ、私は四年生になって就職活動をした。私は自分の事情を汲んでくれた会社から内定をもらうことができた。
 そして大学を卒業する時に、私はタケチ君からプロポーズを受けた。親に会ってほしいと言われ、もしかしたらそんな話になるかもとは思っていたけれども、いざ、それを聞くと私は怖くなった。
「でも私、鉢をかぶっているんだけれど」
「大丈夫、ボクからよく言い聞かせてあるし、理解もしてくれているよ」
 そう言われて私は少し安心したけれども、やはりまだ怖かった。自分の息子が、頭に鉢なんかかぶっている女を連れてきて、結婚したいと言ったら、本当にお父さんやお母さんは賛成するだろうか。そういう不安を持ちながらタケチ君の両親と会うことになった。
「初めまして、ツキ子です」
 私は緊張と不安とでどうかなりそうだった。もしもやっぱり、と言われたらと思うと、この場が辛くて仕方がなかった。
「初めまして、タケチの母です。息子がお世話になっています」
「ツキ子さん、タケチの父です。息子をどうかよろしくお願いします」
 二人にそう言われて、その優しい声に、私はほっとして、泣いてしまった。大丈夫だから、そう言われて嬉しくて、しばらくは泣いたままだった。
「私、鉢をかぶっているから、心配で」
 私がそう言うと、お母さんが笑いながら言った。
「それでいいのよ。誰だって、人と違うところがあるでしょう。あなただって同じよ。うちの息子だって、買ってあげたものをいつまでも開けないような、ちょっと変わった所があるから。きっとそういうところで惹かれあったのよ」
「そんなことないです。タケチ君はいつも優しくて、私には似合わないといつも思っています」
「そうかしらねえ、よかったわ。息子にこんな素晴らしいパートナーができて」
 私は鉢をかぶっていてもこうして幸せになれるんだなと思った。

 こうして、私とタケチ君は結婚することになった。タケチ君の部屋で、タケチ君はもどかしそうにした。

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