小説

『鉢姫花伝』三号ケイタ(『鉢かつぎ姫』)

 初めまして、とその人は言った。柔らかくて、優しい声の持ち主だった。それから私たちは昼ご飯を食べながら、たくさん話をした。タケチ君は一人暮らしをしていて、趣味は限定品集めであること。最近手に入れた限定のお酒パックの中身が気になっていること。そんな話をしていると、友達が、
「私はこの辺で・・・」
 なんてわざとらしく言って先に店を出て行ってしまった。
「何の気遣いなのよ」
 私がぶすりと言うと、タケチ君は面白そうに笑った。
「全くありがたいね。それより、これから時間あるかなあ。もしよかったら、食後のコーヒーでも飲みに行かないかな」
 そして私は生まれて初めて男の子にエスコートされた。おしゃれな喫茶店に入り、コーヒーを飲みながらまた話をした。話の終わりに、タケチ君から告白をされて、私は嬉しかったけれど、少し戸惑いもした。
「嬉しいけど、でも私、鉢をかぶっているんだよ」
「そうだね、でも、鉢をかぶっているほうが、奥ゆかしい感じがして、ボクは好きだよ」
 そう言ってくれて、私はそんな風に言われるのも初めてで嬉しかった。そうして、私たちは付き合うことになったのだ。
 翌日、私が女友達に会って報告すると、そうでしょう、タケチ君、いい人だよと言ってくれた。
「本当に私でいいのかなあ。すごくいい人だし」
「大丈夫だよ。彼、ずっと彼女なんかいなかったらしいし。でも格好良いから高校時代もモテたんだって」
「じゃあ、なおさら私なんか不釣り合いだよ」
「そうかなあ。彼格好良いけど、ちょっと変わったところあるからねえ」
「それって、私みたいな女の子が好きだとか?」
 そう言うと、友達は慌てて、違う違うと言った。
「そういうことじゃなくて、趣味とかかなあ。話を聞いたけど、限定の福袋やカードゲームのパックなんかを、コレクションしておくのはやっぱり個性的だなって思うかなあ」
「それ、確かに面白い人だよね。でも、やっぱり私からしたら、自分みたいな女子と付き合おうなんて考える男の子は物好きなのかもって思うよ」
私はそう笑った。今までずっとそんなこととは縁がなかったぶん、嬉しい反面、私はいくらか懐疑的になっているのだった。
 それからというもの、タケチ君とはいろいろなところでデートをした。もちろん、私の都合に合わせたところばかりだったけれど。映画は首が疲れるからだめだし、人が多いショッピングも危険なのでいけない。タケチ君は考えて、いろいろな施設がある遊園地に連れて行ってくれた。

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