「どう?うんうん、うん、やっぱね、うんうん、そっか、だよね、アンダ、じゃば、お花畑駅でよろぴこ」
「おっさんさ、」
女は男を見た。男の顔は煤で黒ずんでいた。
「おっさん、顔!ぷはー!まじがんぐろ!やばい!」女は笑った。
「えっ?」
男は顔を窓ガラスに映そうとした。
「こっち見て」
女はスマホを向け、男を撮影し、その写真を見せた。
「やばいっしょ、あれ?おっさん泣いた?なんか・・・」
「ははは」男は苦笑いした。
「しかし、キミも・・・」
「えっ?」
女は慌てて自撮りした。
「はははは、なにこれ?ちょーやばくねー!あんた、だれって感じ?はははは」
「写真、邪魔して悪かったね」
「ワタシの腰、触ったよねー」
「落ちると思って、とっさに」
「わかってるって、あざーす」
「いや」
「ねえ、姉ちゃんってなに?」
「えっ?あっ、いや・・・それより、撮影どうするの?邪魔者と写っちゃって・・・」
「天使を抱きかかえる執事ってとこ?」
「すまない」
「次で下りて、戻って、もうワンチャレ。だけど、この顔じゃ、まじ悪魔だし、まあ、化粧から直しはいりまーすって感じ?」
「じゃあ、そのぶんの電車代出すよ」
「まじっすか!さすが大人、見直しマックス!でも、お気持ちだけでけっこうです」
「しかし」
「ねえねえ、あのエプロンの若い人が姉ちゃんなわけ?どう見ても娘さんって感じなんですけど」
「えっ?キミにも見えたの!」
「だれでも見えるっしょ、あんなに元気いっぱい手を振って」
「そう・・・キミにも見えた・・・」
「あれ?ワタシ、やばい感じ?見えないはずのものを見たとか?」
「いやいや、そんなことはないけど、ただ、あれは・・・」
「オッケーおっさん、この話はなかったことにしよう、ね」
女は慌てて手鏡を取り出した。
男の頭の中で割烹着を着た若い姉と遺影の姉、そして煙の中で輝く美しい天使の顔が目まぐるしく錯綜し、なぜか、再び目頭が熱くなった。
「ウエットティッシュ、あげようか?」