「皆悲しいだろうが、ずっと悲しんでいたら水谷も浮かばれない。皆で力を合わせれば、この悲しみもきっと乗り越えられる。……じゃあ、水谷に黙祷を捧げよう」
皆が顔を伏せて、教室が再び沈黙に包まれる。その様子を、私は信じられない思いで見ていた。あの愛美が、私が死んで泣くなんて。もしかしたら、愛美も少しは悪いと思っていたのかもしれない。黙祷の間中愛美は顔を覆い、引きつった声を上げ続けた。
1分ほどで私への黙祷は終わり、先生は出て行った。教室が再びざわめきに包まれる。こんな時いつもなら真っ先に喋り出す愛美は、自分の机に突っ伏して肩を震わせたままだ。心配そうな顔をした取り巻きたちが周りに集まってくる。
「愛美、大丈夫?」
名前を呼ばれて、愛美はおもむろに顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいる。取り巻きの一人が慌てて声をかけようとすると、愛美は腹を抱えて笑いだした。
「心臓麻痺で死ぬって、どんだけ間抜けなの⁉︎ほんっと笑える!笑いこらえるので必死だったよ~、笑いすぎて涙出ちゃった」
愛美は、心底おかしいというように、手を叩いて大声で笑った。愛美の豹変ぶりに一瞬戸惑った取り巻きたちも、次第に笑い始める。
「ほんと、いなくなってくれてスッキリした~」
「最初自殺したのかと思って焦ったけどね」
キャハハ、という甲高い笑い声が水槽の中まで響き、水面を揺らした。
結局、魚になっても変わらない。あいつらは、いつまでも私を傷つける。死んだ後でさえも。耳を塞いでしまいたくても、金魚には手がない。私は水草の影に隠れて、止まらない悪口をいつまでも聞き続けた。
放課後、先生は私を水槽からすくい上げて小さな透明の袋の中に移した。そのままどこかへ運ばれる。先生が一歩踏み出すたびに、振動が伝わって気持ち悪い。景色が右や左に揺れ動き、めまぐるしく変わっていく。車酔いにも似た感覚に耐えていると、先生は小さな家の前で立ち止まった。よく見慣れた、私の家だ。インターホンの音に続いて、扉が開く。お母さんのやつれた顔がのぞいた。
「どちら様でしょうか?」
「私、朱莉さんの担任をしていた者です。……この度は、誠に御愁傷様でございました」
お母さんの目から涙が溢れ出す。先生の声も一層悲しげになった。
「朱莉さんは本当に優しい生徒で、金魚の世話も率先してやるような子でした」
先生は、私の入っている袋を掲げた。お母さんの顔がぐにゃぐにゃ歪んで見える。