クラッカーが四方八方から叫びをあげる。天井で孤独にぶら下がっていた尻のようなくす玉が割れ、紙吹雪が空中を自由に舞った。
息を殺して身を潜めていた音楽は、その存在を少しずつ見せ初めると、再び大音量でフロアに戻ってきた。色とりどりのグラスがぶつかり合う音も、祝福の鐘のようにあちこちで鳴り響く。
<彼>はピンクの絨毯のようなフロアを一望すると、胸がギリリと痛み、尾を引くことなくその場を去った。
たとえ主役の姿が見えなくとも、神格化された<彼>の存在が人々の心に宿り、CLUB Peachは色褪せる事なく宴が続く。
ステージを降りた<彼>は、既に疲れた様子を見せながら壁にもたれ掛かった。
(一体自分は何をやっているのか…。)
割れたくす玉の紙が、スーツのシワに入り込んでいた。まるで体の中に入り込もうとしているような畏怖を感じさせる。<彼>はピンク色のスーツをその場に脱ぎ捨て、逃げるように裏口から外に出た。
CLUB Peachの外は、相変わらず湿った道路が伸びている。
水溜まりは漏れ出した重低音を敏感に感じ、音に合わせて水面に波紋を広げた。
生暖かい空気は、<彼>にとって正気を取り戻す最高の薬となった。
<彼>は目を閉じ、地面から伝わる懐かしい唄に耳を澄ませた。そしてほんの少し、以前の事を思い出す。仲間と笑いあった日々、優しかった家族の事。しかし、もうその姿を見ることは出来ない。あの日から何もかも変わってしまった。
突如、<彼>のポケットから一本の電話が鳴り響いた。
「…はい。」
<彼>は嫌悪にまみれた声で答えた。
(こんばんわ、大スターさん。)
薄笑いを浮かべた氷のような声が、受話器から聞こえる。
(なんだ、怒っているのか?もっともっと稼いでもらわないとね、困るんだよ。恨むなら君の親を恨むんだね。お前だけでも生き延びられた事、有り難く思ってもらいたいね。)
「…。」
(あいつらも居るんだろ?使えるもんは使っとけ、少しは役に立つだろ。)
<彼>は胸が痛むのを感じながら黙っている。