小説

『愛しのルリ』緋川小夏(『八百比丘尼伝説』『人魚姫』)

 さっそくネットで検索してみる。人魚の肉を食すると不老長寿の身となり、永遠の若さを手に入れられるそうだ。
ルリの肉が体内に入ると細胞レベルで交わり結びつき、やがて僕の血となり肉となって完全体となる……その魅惑的な思いつきに、ぞわりと全身が粟立った。
 ルリを食することによって、僕たちはひとつになれる。
 そんな素敵な思いつきを、どうして否定する事ができるだろう。僕はその甘美な誘惑に抗い切れずに、とうとうルリを生簀から引き上げてしまった。そしてルリの体をしばらく抱きしめた後、ベッドの上に横たわらせて頬を撫でながら静かに話しかけた。
「大丈夫。何も恐くなんかないからね」
 ルリは瑠璃色の瞳で僕をじっと見つめて、うっすらと笑ったように見えた。僕はいたたまれない気持ちになって、吸い寄せられるようにルリの小さな唇に自分の唇を重ねた。
「ルリ。愛しているよ」
 ルリの体からは、濃い潮の香りがした。
 僕は唇を離すと覚悟を決めて、すぐに両手をルリの首に回して力いっぱい締め上げた。みるみるうちにルリは苦悶の表情を浮かべてブルブルと全身を痙攣させた。両手が何かを掴もうとして宙を舞っている。濡れた長い髪が黒い海藻のように僕の指先に絡みつく。
 しばらくするとルリは静かになり、ぐったりとして動かなくなった。
「ルリ……ルリ……?」
 何度、呼びかけてみても反応はない。
「ごめんね……ルリ」
 少しずつ冷たくなってゆくルリの体を抱きしめて、僕はわあわあと声を上げて泣いた。ごめんね。でも、こうするしかなかったんだ。わかってくれるよね、ルリ。涙は枯れることを知らない泉のように溢れ続けた。
「でも、これで一緒になれるからね。ずっとずっと、一緒だからね」
 僕の腕の中で静かに横たわるルリの姿は、まるで眠っているかのように愛らしかった。

 僕はルリの体をバラバラにした。
 包丁は魚をさばくときの出刃包丁を使った。釣りが趣味なだけあって、僕は魚をさばくのが得意なのだ。人間の姿をした上半身は切るとき少し躊躇したけれど、下半身は魚を三枚おろしにする要領で進めていった。
 人魚の美味しさは想像以上だった。鮮やかなバラ色をした肉は何とも言えない甘い芳香を放ち、脂が乗って、とろけるように柔らかい。僕はゆっくりと味わいながらルリの体を全て食べ尽くした。
 これで僕とルリは、完全にひとつになった。

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