小説

『アリとキリギリス』鷹村仁(『アリとキリギリス』)

 次の日に部長から呼ばれた。「何でしょうか。」と近づくと、
「会議室で、ちょっといいか。」
 部長はそう言って立ち上がり歩き出した。何事が起ったのか分からなかったが、部長の顔は真剣だった。
 広い会議室では部長と自分の二人きりだった。
「座って。」
 部長は隣の席を進めた。何を話されるのか全く見当がつかなかった。
「何でしょうか?」
「うん・・・。」
 少しの間があった。何か言いづらそうな雰囲気が漂っている。部長は手をテーブルの上で組み、何かを考えている。
「何ですか、怖いですよ。」
 場を和ませようと笑いながら聞いたが、部長の表情は変わらなかった。
「非常に言いづらい事なんだが、冷静に聞いてほしい。」
「・・・何でしょうか。」
 その言葉に身構える。
「奈良橋、お前を来年の3月以降雇えなくなりそうなんだ。」
 部長がまっすぐにこちらを見てくる。
「え・・・雇えなくなる?」
「そうだ。」
「・・・それは、リストラって事ですか?」
「そうだ。」
 自分で言っておいてなんだが、「リストラ」と言う言葉に現実味を全く感じられなかった。
「・・・いつですか?」
「来年の3月だ。」
 淡々と部長が答える。
「ちょっと待ってください、僕がリストラですか?」
「悪い。」
「あの、何かいけない事でもしたんでしょうか?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。上で決定した事だから。」
「いや、でもいきなり言われても。」
「だから、来年の3月以降の話だ。」
 今は11月だからあと4ヶ月でなにがしかの手を打っておけと言うのか。いや、そんな事を考えている場合ではない。
「ちょっと待ってください。」
「すまない。上で決まった事なんだ。」
「・・・そんな。」

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