小説

『青い女たち』紗々井十代(『ジャックと豆の木』)

それでも四人で話していると心が軽くなった。一人でない、というだけのことが嬉しかった。
あとは私たちの命綱がふやけて破けないことを祈るばかり。

  ※

 決して退屈はしていなかった。四人で過ごす日々は楽しくて儚い。
 けれど、誰だってこういう悩みを抱えるのだと思う。老いのようにねっとりとへばりついた暗闇。
「本当にこれでいいのだろうか」という漠然とした不安が、部屋で一人、夜寝る前、突然脳裏をよぎるのだ。
 たしかに、ジャックが痴話話で私達を呼びつけて、その度に成就祝いだ慰め会だとやり、時にKが身体を動かしたいと言ってボーリングに行き、またある時にはモチが、今から海に行こうと提案して、放課後に電車を乗り継いで旅をする、なんて日々はたまらなく楽しい。
 それでも、どこまで行っても楽しいなのだ。私は果たして、将来のために何かを、成し遂げなければいけないのではないか――例えば、部活だっていい。もしくは、勉学に打ち込んで知識を蓄えるとか。何かせめて一つ、頑張ったと言えること――と、衝動的に不安になる。
 「どうせ何やったって不安なのよ」
 とジャックは言っていた。彼女は人の悩みを親身に聞いてくれる。
 「きっと私は後悔しないわ」
 自信に満ちた彼女のことが羨ましく、同時にきっと私もそうなのかな、とも思う。
 少なくとも、四人でいる時には、そんな悩みはちっとも脳裏をかすめない、ということだけは確かだった。

 ※

 幸いにもジャックの失恋通知は恐るべき強靭さを誇り、ちっとも破けず歪まず、四人の身体を支えてくれていた。
 いつしか雲も通り抜け、頭上には濃紺が溢れている。着実に宇宙へと近づいている。
 「自分の失恋通知を登るのってどんな気持ちなの」
 唐突にモチが訊ねた。
 間もなく大気圏に突入しようという時だった。
 「あなたって遠慮がないのよね」
 ジャックが苦笑いするのが分かる。
 「遠慮したから大気圏まで聞かなかったんじゃん」
 大気圏は薄ぼんやりと青く、海に潜っているようでもあった。
 私たちがはるか上空に見上げていたこの青は、柔らかで親しげ。まるで最初からずっと近くにあったかのように。
 まあでも、とジャックは言う。
 「悪い気分じゃないわ。こうして辛い恋を乗り越えて、宇宙まで行けるんだから」
 微笑んでいる様子が上まで伝わってくる。
それから、
 「ところで、あなたたち恋人を作る気はないの」
 出し抜けに訊ねた。
 実のところ、ジャックを除く三人には男っ気がまるでない。
 「ないことはないけど。でも好きな人を作るのって難しい」
 私は正直に答える。

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