物語は嘘だらけだ。
嘘のお話を書き綴った人工物は、そもそも無いものを有るように見せているのだから、嘘(フィクション)で構築されているのは当然なんだけど、嘘に埋もれた物語はいつだって真実を隠してしまう。
だから僕は、嘘のなかに秘められた真実っていうものを知りたくて、十三人目の魔女のことを考える。
大切なものを守るために、悪を演じぬいた。優しい魔女のことを。
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意識と記憶が矛盾なく繋がっている状態を保てる世界が現(うつつ)であるとしたら、僕にとっての現は夢の世界ということになる。
何せ外界(げかい)の人たちがいうところの現の世界の僕は、いつも意識が霧のかかった山道や湖みたいに虚ろで朧気だから。
僕の脳にはどうやら人並み外れた睡魔の化け物が住み着いていて、そのおかげで僕の体はいつも生まれたての子鹿みたいな覚束ない足取りで歩みを進めるし、瞼は閉店間際のお店のシャッターみたいにいつでも下りてしまう。
もしかすると、覚醒っていう言葉を僕の脳は記憶できないようにできているのかもしれない。
おまけにうつらうつらと微睡む頼りない現の世界の僕の意識には、敵を目掛けて容赦なく射られる弓矢みたいな猛烈な眠気が突然襲い掛かってくる始末だ。
そんな症状というのか衝撃というのか、とにかく現の僕は四六時中眠気という見えない敵に追いかけ回されているものだから、僕にとっての現というのは虚構で構築された物語みたいに思えてしまう。
ここではないどこか。みたいな、そういう曖昧な世界を夢と呼ぶのだとしたら、間違いなく僕にとっての夢の世界は現ということになる。
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僕のような凄まじい眠気が突然襲い掛かってくる症状を、現の世界では“ナルコレプシー”というらしい。横文字だとなんだかよく分からないけど、日本的に言うならば“居眠り病”という睡眠障害の一つのことなんだそうだ。
最初から居眠り病とだけ言ってくれれば分かりやすいのに。
それにしても眠気が常人よりも破滅的で絶望的に強いっていうだけで、やれ障害だの病だのと決まった枠組みに押し込められるというのは、少し不本意な気もする。
きっと人間は何にしても確固たる囲いがないと不安になるんだ。
集団生活を営む人類にとって、確固たる囲いからはみ出さないことと、何にも属さないっていうのは、衣食住を満たす以上の死活問題なのかもしれない。若しくは、何にでも名称をつけないと満足しないようにできているのかな。
(現の世界的表現を用いるなら人間は皆、命名不安症という神経症を患っていることになるんじゃないかと思う)