小説

『AIしてる』村田謙一郎(『かぐや姫』)

「俺さ……ずっと君のことが好きだった。俺と」
「おい、抜け駆けはなしだぜ!」
 今度は佐々木が、野口の後を追いかけるかのように、階段を一段飛びで上がってくる。横に並んだ佐々木は、野口を押しのけ、アイに近づく。
「俺もアイちゃんが……」
 アイは野口、続いて佐々木に耳打ちすると、階段を上がっていった。
ボーッとアイを見送った二人は、やがて顔を見合わせ、つぶやいた。
「……タケコプター?」
「……四次元ポケット?」

リビングのテレビでは、スポーツキャスターがサッカー日本代表の試合の結果を、暑苦しいほどの熱量とともに伝えていた。ソファでアイと画面を見ていた宅間が、立ち上がって伸びをする。
「さて、寝るかな」
「あら、お茶いいの?」
急須を手にした保子がキッチンから声をかける。
「ああ、ウォーキングで飛ばした分、なんか疲れた」
「おやすみなさい」とアイは宅間に頭を下げた。
「アイちゃんも、ちょっと元気ないみたいだけど、疲れてる?」
「そんなことないですよ」と笑顔を作るアイ。 
「無理しちゃいかんよ」と言って宅間はリビングを出て行った。
急須から湯のみに番茶を注いだ保子が顔を上げると、アイが壁の日めくりカレンダーに目を向けていた。
「アイちゃん、最近カレンダーを気にしてるようだけど、何かあるの?」
 そう言って保子は、お盆で運んできた二つの湯のみをテーブルに置いた。
「……3日後に帰らなきゃいけなくなったんです」
伏し目がちにアイが答える。
「え……フランスにかい?」驚いた保子は、お茶を飲む手を止めた。
「ごめんなさい、黙ってて」
「何かあったの?」
アイは頭を下げたまま、何も言わない。
「……そう、わかった。……あの人には、私からそれとなく伝えておくから」
「はい……」
「……あの人、言ってたのよ。なんかアイちゃんが、ほんとの娘みたいに思えてきたって。娘っていうより孫でしょって、私言ったんだけどね……でも、私も同じ気持ちだよ」
保子は愛しさと寂しさが混ざった目で、アイの美しい金髪を見つめた。

「いけ! ほら!」
青空に野口の声が響く。

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