小説

『AIしてる』村田謙一郎(『かぐや姫』)

「これは私の気持ちです」とアイはリボンのかかった小箱を宅間に差し出した。
「じゃあ……行きます」とアイは立ち上がり、スーツケースのダイヤルを回し
た。そして振り返り、ふたりを優しい目で見つめた。
「また絶対に会えます。それまでお元気で……お父さん、お母さん」
アイの目から一筋の涙がこぼれた。
 拳を握りしめる宅間、保子が顔を手で覆う。
 アイはスーツケースへとカラダを入れ、ゆっくりと閉じた。
と、ケースが光を放ち、震え始めたかと思うと、一瞬でその姿が消えた。

静寂が訪れる中、肩を震わせる保子。
「……保子、これ」
保子が顔を上げると、宅間がアイからもらった小箱を開けて見ていた。
手を入れ、中の物を取り出す。透明な袋にカプセルが二つ入っている。そして袋には『不老不死薬』の文字が……
 二人は抱き合い、満面の笑顔で嗚咽した。

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