小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

 ハゲー!
 ハゲー!
 そして、ハゲーの声しか聞こえなくなった瞬間、頭が真っ白になる。
 ブス!
 フラッシュバックのようにあの時が蘇った。
 次の瞬間、真由美は机をバンッと叩いて立ち上がると、「やめてー!」と絶叫した。
 宴会場は瞬時に水を打ったように静かになる。誰もが驚いている。時が止まったように、皆の動きが止まっている。真由美は自分でも自分が制御出来なかった。
「なんで、みんな容姿のことばっかり言うの?言われたくないことだってあるんだよ。なんで、そういう気持ちわからないの!」
 真由美は自分の気持ちをまくし立てた。目は潤んでいるのがわかる。
 大人しい真由美が突如、大きな声で怒っていることにみんな唖然としている。
 何やってんだろう、あたし……、ハッと気づく。正人が嫌かどうかもわからないのに――。
「ごめんなさい。帰ります!」
 真由美は大きく頭を下げると、逃げ出すように店の入り口に向かった。後ろから、「まゆちゃん!」と叫ぶはなちゃんの声が聞こえる。だが、真由美は振り返らなかった。
 店を飛び出ると雨が降っていた。真由美は雨に濡れるのも構わず、泣きながら駅に走った。

 コンビニで傘を買うこともせず、真由美は、最寄りの駅からも雨に濡れてトボトボと帰った。同窓会での出来事が色々とショックで、もう傘をさして帰る気力もなかった。せっかくの同窓会を台無しにしてしまった――。さらに、ショックだったのが、あんな啖呵を切ったくせに、自分だって正人の容姿にショックを受けていたことだ。
――結局、自分だって、容姿で人を判断してる……、自業自得だ……。
 家に着くとずぶ濡れだった。
 バスタオルで拭おうと洗面台に直行する。洗面台の鏡に映った顔は、メイクが雨で崩れ、悲惨な状態だった。
――あたし、お化けみたいじゃない……。
 真由美はペタンと床に崩れ落ちた。
 涙が止まらない。

 同窓会から2週間経った。あれ以来、美容室には行っていない。
 同窓会を飛び出した後、はなちゃんが何度もスマホに連絡をくれていた。それに気づかず、翌日、はなちゃんに連絡すると、はなちゃんはとても心配していた。自分が同窓会をつまらないものにしてしまった事を詫びると、それは大丈夫だから気にしなくて良いよと言っていた。それ以上は怖くて聞けなかった。

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