小説

『第二ステージ』戸田鳥(『時計のない村』『金の輪』小川未明)

「これで海まで行ってみようぜ」
 それもいいな、と僕は想像した。遭難ごっこではなく、海に出ることを。頭部の期待するトラブルは無しだ。ボートに穴は開いてない。嵐に出会うこともない。暗礁に乗り上げるつもりもない。僕はただずっと、夜の海を波にまかせて漂っていたいのだ。
 躊躇することはなかった。
 僕は勢いよくボートを押し出した。ボートの底が水に触れると、僕はもう河口にいた。すぐそこに海への出口が迫っている。後ろから頭部の呼び声が聞こえたので、僕は黙って手を振った。波がボートを引っ張り、灯りが遠ざかっていく。海に出てしまうと、空との境目はわからなくなった。闇に潮の香りが混じる。上も下も過去も未来もない、静かな航海の始まりだ。見えない空に目を向けた。でたらめな配置にちりばめられた星々からは、方角を読むことはできない。けれども迷う心配はなかった。
 僕はいつだって、どこにだって行けるんだ。

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