小説

『no little red food』日吉仔郎(『赤ずきん(little red hood)』)

 言われてすぐ、「そんなことないよ」って言えばよかった。そんなことないかわからなくても、きっと大丈夫だよって言えばよかった。だって林田さんがお父さんに会いたくないなら、会わなきゃいけないなんておかしい。
 林田さんは勇気を振り絞ってわたしに話してくれたんだ。だったらきっともう、違うやり方が浮かんできている。どうにもならないなんてことはきっと絶対にない。
 違うやり方があるよ、どんな方法があるか、わたしも一緒に調べるよ。
 明日、林田さんに、そう言おう。
 当初見えていた終わり方がどうであったって、わたしたちは考えて、手を動かして、例えばパンダを助けることができる、みんなが食べて消えゆく鰻を、お腹のなかから助け出してしまうことだってできる。物語にはいろいろな結末がある。
 うまく伝えられるかわからないし、意味がわからないって言われるかもしれない。でもそういうことを伝えるんだ。わたしは深呼吸して、本のページをめくる。
 次のページには、森のなかで遠吠えをして仲間を探す、アメリカアカオオカミの写真が大きく載っていた。

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