「俺はお前がどんな趣味でも否定するつもりはない。ゲームとか小説とか漫画とか、合法じゃないか。でもな、現実世界ではダメだと思うんだ。ロリコンは現実ではダメだと思うんだ」
「誰がロリコンじゃボケ! 」
キリッと爽やかさすら感じる顔に反射的に突っ込んでしまった。俺はロリコンではない。が、雪也の言葉でなんのことを言っているのかは分かった。
「お前の好みを俺は否定しない! 」
「だから違うから! てか、その話いつ知った? 」
「俺の姉さまは看護師です」
ああ、なるほどと納得してからいくつか訂正した。そして雪也の家庭事情も若干透けて見えた。よく弟は姉の僕になると言われているけど現実にそうなる家もあるんだな。
「9歳だってさ、あの子。院内学級はあるけど、寂しそうにしてるんだって。お友達に毎日会えるわけでもないだろうし、あの子はあの子で肺に疾患持ってるし」
姉さまから聞いた話だけど、と前置きしてからニヤついていた顔を真剣にした。
「たまに会いに来てくれって、やっぱり寂しいんだってさ、母親も毎日来れるわけでもないし、父親は病院に来たことすらもないらしいから」
まぁ、おじいさんのお見舞いのついでにでも寄ってやってよ。そう、雪也は言って自分の席に戻っていった。雪也の机の上には前回の模試の問題用紙。生真面目に問題の解き直しをしていたようだ。
俺も少しは勉強しないとな、と思って席に着く。頭によぎるのは、全然大丈夫じゃないあの子の「だいじょうぶ」、子どもなんだから甘えればいいのに。モヤモヤとそんなことを思っているうちに教室の前を通った坂上先生に見つかり、説教を受けることになった。
3日後、俺は再び病院に来ていた。今回はばぁちゃんも一緒だ。じいちゃんの着替えを持っていきたいが荷物が多くて一人では運べないから手伝ってくれという事だった。母さんはパートで手伝えず、俺が一緒に行くことになった。
荷物を持ってじいちゃんの病室に入る。ばぁちゃんは先にナースステーションに挨拶に行ってしまった。
「じいちゃん元気? 」
「おお、広樹。あれ、ばぁさんどうした? 」
ナースステーションに行ったことを告げ、持ってきた荷物を広げる。下着とか、消耗品とかで意外と入院するのにも荷物がいるらしい。物を出しながらじいちゃんと話しているうちにばぁちゃんも帰ってきた。
「広くん、ありがとうね。おじいちゃん我儘言ってないかい」