「村まで案内してやるから、ついて来な」
そう言い、初老の男は歩き出した。サトルは安堵し、車の窓を閉めようする。が、その瞬間、風にのって、谷底の方からうっすらと「おもしろいぞー」という声が聞こえてきた。
「・・・ん? いま、何か言った?」
「え?」
千雪は怪訝な顔でサトルを見つめている。サトルは窓の外に顔を出し、再び耳をすませてみる。
ごう、と雨風の混ざった音がしている。
「サトル? どうしたの?」
「あ、いや、何でもない・・・気のせい・・・かな」
サトルは身震いしながら、車の窓を閉めた。
そのちいさな村落は、四方を山々に囲まれた山間にあった。
村の中心へは、道が真っすぐ伸びていて、入口には、侵入者を拒むかのように石碑が建てられている。
古風な造りの家々が軒を連ねる中、ひときわ大きな家の前で、初老の男が止まり、手招きをした。車を止め、三人は中へ入っていく。むわっと、温かい空気が包みこむ。
小奇麗な土間の奥には、囲炉裏も見え、村人たちが暖をとっている。皆一様に、年を取っている様子で、若者は見当たらない。
「トメ、お客だ」
案内の男が呼びかけると、同じく初老の女性が囲炉裏の輪から立ち上がり、サトルと千雪たちを出迎えてくれた。その奥で、村人たちが、ヒソヒソと声を立てている。
「おお、見ろ・・・」
「・・・なかなか、若ぇな」
その声が聞こえてない様子で、千雪は笑顔で挨拶をする。
「こんにちは。急にすみません。お世話になりますが、よろしくお願いします」
すると、もう一人の男性も立ち上がり、二人のもとに近づいてきた。
「おお、おお。村長の菊池と申します。学生さんかい?」
「はい。大学生です」と千雪が答える。
菊池は、千雪の手を握る。
「こんな雨の中、遠野の山奥まで、よく来てくださった。これといった特別なものはないが、美味い料理と、温泉はある。あとは、年寄りばかりの村だが、ゆっくりしてってください」
サトルが間に入り、握られた手を払う。
「千雪、行こう」
「トメ、よろしく頼むよ」
そう言うと、菊池は再び村人たちの談笑の輪に戻っていった。
きしむ階段を二階に登ると、細長い廊下に部屋が幾つか続いていた。