小説

『まんじゅう二十個食べる、めっちゃ怖い』ノリ・ケンゾウ【「20」にまつわる物語】(『饅頭こわい』)

 と、田邊に続いて三人が言ってから、その四人が固唾を飲んだような目で私を見る。一瞬、どうすればいいのか分からず困惑したが、私もまんじゅうをやっとの思いで飲み込んでから、四人に倣って、うまい、と呟いてみる。四人がほっと胸を撫で下ろした感じで私を見て、頬を緩めた。
「田邊さん、言うのが遅いから。一発目から引いちゃったのかと思ってびっくりしちゃったよ。まったく、演出家なんだから」と宮部が私のことを見て笑った。なにが演出家だ。
 まず一個目のまんじゅうを食べ、呪いのまんじゅうを引いたものはいなかったようだが、何をもってして呪いのまんじゅうを引いたことになるのか。食べた瞬間に呼吸困難に陥るとか、笑いが止まらなくなってしまって死ぬとか、大量の血を吐いて死んでしまうとか、そういうのを想像してみたが、はたしてそんなに分かりやすい症状がでるとも限らないので、私が今、うまい、と言って食べたまんじゅうが呪いのまんじゅうであった可能性もあるような気がしてきて、そうなれば既に私は呪いのまんじゅうを食べ、呪いを負ったとも考えられるわけで、いよいよ気が狂いそうになるのだが、それもまた例によって私以外の四人のくつろいだ様子のせいか、一人だけ気が動転するわけにもいかず、無理に平静にしているうちに、その無理が無理でなくなる瞬間が訪れてきて、そもそも平静でいたかのように私まで気分が安らいでしまう。リラックスしきってしまう。いつのまにか盆休みや正月に、親戚であつまったときなどにテーブルを囲んでおはぎやそれこそまんじゅうを食べるときのような感覚に私はなっていた。
「でもあの、実は一個目って、意外と一番緊張しませんか?」と言い出したのは橘で、「なんていうか、可能性としては一番低いわけじゃないですか、最初の一個って、でも、その一個目を食べるまでがやっぱり、一番怖いっていうか。だって、これから死ぬかもしれないって思ったら」とにこにこ言う橘であったが、目はまったく笑っておらず、どこか狂ったような目に見え、恐怖を感じる。「でも二個目とか三個目になると、恐怖が麻痺してくるっていうか、開き直ってきて、そういうときに食べるおまんじゅうってすごく美味しいですよね。最後の晩餐、っていうんですかね。あの瞬間が、たまらなくって」橘がここまで話し終えると、「まあ人それぞれ、いろんな感受性がありますからな」と田邊はなぜかまったく取り合わずに雑に話をまとめ、それに対して橘も何も感じていない様子だった。「さあ二個目のまんじゅうを食べましょうか」と田邊が改めて言って、「そうしましょう」「そうしましょう」と宮部と森が続いた。橘の話した内容と橘の目が頭から離れず、次のまんじゅうに手をつけるのがためらわれる。しかしながらまた田邊の掛け声が始まる。
「まんじゅう!」
「まんじゅう!」
「めっちゃ怖い!」
「めっちゃ怖い!」
 それから五人で同時に口の中にまんじゅうを入れる。

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