小説

『Re:桃太郎』津田康記【「20」にまつわる物語】(『桃太郎』)

 「これで20回目か…」
 川の流れに揺られながら、桃の中で赤子の桃太郎は呟いた。
「19回も世界を救っているのにめでたしめでたしにならないとはな」
 桃太郎はこれまでの戦いを振り返った。1度目は普通の桃太郎のおとぎ話だった。おばあさんに川で拾われ、優しい祖父母のもとすくすく育ち、都で暴れている鬼を退治するために旅に出た。道中で仲間にした犬、猿、雉と協力し、鬼ヶ島で鬼を懲らしめた。鬼が人々から奪った財宝を取り返し、生まれ故郷である祖父母の元へ向かおうと……その瞬間だった。
 ふいに意識を失い、気づけば桃太郎は赤子の姿で桃の中にいたのだった。

 上流から下流へと差し掛かったのか流れが少し緩やかになっていく。
「何かが物語を終わらせるのを妨げているのか?」2度目の世界では物語の流れや設定は同じだったが、全体的にビジュアルが強化され、イケメン桃太郎、ダンディ祖父、美人祖母、カッコいい鬼たちになっていた。3度目はビジュアルの強化を踏襲しながら、犬と猿のBL要素が加わったり、祖父母のラブロマンスが展開したり、桃太郎が鬼を対峙するというメインプロットにプラス各キャラクターのドラマが追加され、オムニバスの様相を呈していた。ただ、物語の終わりは同じで、鬼を退治して財宝を持ち帰る途中で桃太郎は意識を失った。
 4度目の繰り返しにあった時、桃太郎はどんなルールによって成り立っているのかがおおよそわかってきた。理屈は不明だが、物語が終わりに近づくとまた新しい桃太郎が始まる、桃太郎だけは以前の記憶を引き継ぐことができる、そして鬼を退治することには変わりはない、ということだった。

 4度目の世界に入ると、ウィーンという機械音とともに何か硬いものの上を自分が入った桃が動いていると桃太郎は感じた。すぐにカパーン!と桃が開くと、そこはどこか工場らしき中で、さきほどまで自分が流されていたのはベルトコンベーだと気づく。さらに桃太郎の目の前には半分機械化されたGrandfatherとGrandmotherがいた。サイバーパンクの世界の中でMomotaroはレーザーソードと光線銃を駆使しながら、ワイヤーアクション的なアクロバティックな動きでONIを退治していった。仲間はDog、Monkey、Pheasntではあったが完全にロボットだった。Kibidangoは小型の核融合炉として存在しており、それぞれのお供にセットして戦うという仕様になっていた。
 「もう何が起きても驚かんぞ」サイバティックなONIを退治した帰路で桃太郎が呟くと、次に目覚めたのは学園ものの世界だった。

 私立ピーチ学園を経営する翁と嫗に拾われたた桃太郎はすくすく育ち、高校生の年から学園に通うことになった。
 そこには鬼という種族ではあったが、人間の女性と変わらない姿をし、頭にあるツノが辛うじて「鬼」と認識できるキュートなものたちがいた。

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