小説

『まんじゅう二十個食べる、めっちゃ怖い』ノリ・ケンゾウ【「20」にまつわる物語】(『饅頭こわい』)

 目が覚めたら、密室だった。その上、いつのまにこんなところに居合わせたのか、年齢も性別も違うものたちと、こうしてまんじゅうを囲んで向いあっているのである。外は晴れていて、窓の外から差し込んでくる光は眩しい。どうやら天気は快晴らしいが、窓は閉め切られているから外の空気を浴びることはできない。なるほどこれが密室なのか、とも思えるが密室と呼んでしまうほどの物々しさを感じないのは、部屋の中にあるソファや、デスク、それから観葉植物などの部屋を司る物品が醸し出す落ち着いた雰囲気が、密室と呼ぶだけの緊張感を感じさせないからか。生活感こそはないが、リラックスしてくつろげるだけの空間であった。部屋の中には五人。しかもこの中の誰か一人がこれから死ぬのだという。田邊がそう言った。しかしあまりにも緊張感のない部屋のせいで、真実味が出てこない。やはり田邊や田邊たちの嘘なのか。ただの遊興なのだろうか。まあそうだろうな。そんな気がしてくる。しかしそれにしても一体どうしてこんな場所に来てしまったのが分からない。それが思い出せないからには何もかもが起きうる可能性も孕んでいるようにも思える。何もかもが起きてもおかしくないのだと思えてくるようになってしまう。たとえばこの部屋の誰か一人が、毒入りのまんじゅうを食べて死んでしまうとかそういうことが。そう思えてきてしまうと、そうとしか思えてこなくなってきて、さっき聞いた田邊の話が本当のことなのだと思えてしまう。まんじゅう二十個の中にはずれ(それを田邊は呪いのまんじゅうと呼ぶ)が一つ含まれている。そのまんじゅう二十個をすべて、この見ず知らずの五人で平らげなければ、この密室から抜け出すことができない。つまりこれから五人でまんじゅうを食べ、一つだけ入った呪いのまんじゅうを引いてしまったものが死ぬという。なんだそれ、めっちゃ怖い。田邊が掛け声をかける。「まんじゅう!」

 事の発端は、といって過去を遡ることができるのならば苦労しないのだが、なにしろここにやってくる前の記憶がない。ふと目が覚めたときに、この部屋の中のソファに寝転んでいた。いったい私に、なにがあったのか。今になっては、たとえば借金をしていて誰かに連れてこられたとか、映画やドラマみたいな展開を想像してしまうが、目が覚めてからすぐは、この部屋にいる理由も、彼ら四人が誰なのかもまったく分からず、悪い夢でも見ているのだと思って却って平静にしていたものだった。夢の中で知らない人と同じ部屋にいようが、それが誰であろうと気にならないのと同じで、そのままそこへ起きたままの体勢で座っていた。怖いも何もなかった。しかしそれが段々と、寝起きの状態から頭が冴えてくると、これは夢ではないな、と感覚的に分かってくる。尻に伝わるソファの感触とか、人の歩く度に聞こえる足音の鮮明さや、誰かがトイレに入った後に、排泄物を流す水の音、代わり映えなくそこにあり続ける部屋の内装の景色などから、どうやらこれは現実らしいと思うようになった。現実であると思うようになると同時に、急激な不安がやってくる。まず、ここがどこで、私が誰なのかも分からないのだ。分からなければ、他の誰かに聞いてみればいいのだが、他の四人に尋ねてみようにも、面識のない人間にいきなりそんな話をして彼らに変人扱いされるのも怖く、いくらでも湧いてくる疑問を何一つ口に出せずにいた。そんなことを考えているところに、
「田邊さんは、あの、どちらから?」と声がして、その声のした方に振り向くと、声の主が私の目を覗き込むように見ていた。私に向かって言ったのか。

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