小説

『まんじゅう二十個食べる、めっちゃ怖い』ノリ・ケンゾウ【「20」にまつわる物語】(『饅頭こわい』)

「まず、この部屋は私を含め、見ず知らずの五人の人たちが集められた密室です。もう知っている人もいるじゃないか、という指摘はなしです。興ざめしますからね、そういうのは。部屋を出る方法は一つだけ、ここにある二十個のまんじゅうを五人で食べ切らなければなりません。ここまで田邊が説明したところで、田邊さん、なかなか上手ですね、すごい! と橘が手を叩き、それを田邊が、静粛に、と言って右手を、まあまあ、という感じでひょいひょい動かして制した。それからまた田邊が改まって、で、す、が! と少し大袈裟に一文字ずつに区切って言い、宮部と橘は真剣な目でそれを見ながら、わざとらしく唾を飲み込んだ。森はさっきからずっと下を向いて震えている。私も緊張し、田邊の動かそうとする口元を凝視していた。田邊は十分に沈黙の間を作ってから、
「このまんじゅう二十個の中に一つだけ、食べると命を落としてしまう呪いのまんじゅうがあるのです!」
 と、叫んだ。田邊が叫ぶと同時に、橘は、「ひいい!」と悲鳴を上げ、宮部は、「な、なんだって!」と驚いてみせ、森は、「そ、そんな…」と絶望した声を漏らす。重苦しい空気が部屋の中に流れると、それがしばらく、といっても実際はほんの数秒なのであったが続き、その沈黙の後に、くす、と橘が笑い始めると、それに続いて宮部が笑い出し、やがて森もにやにやと笑い始めたかと思うと、司会の田邊までもがはっはっは、と声を上げて笑い出し、最終的に四人とも腹を抱えて笑い転げてしまったので、私はあまりの気味の悪さに恐怖を感じながらも愛想笑いをしてやり過ごした。しかし田邊の言った、呪いのまんじゅう、とやらが本当であるなら、愛想笑いをしている場合ではない。ここから逃げ出さなければならない。密室と呼ばれているこの部屋ではあるが、どこからどう見てもただの個人事務所か何かにしか見えない。本気になれば、逃げ出すことも容易いだろう。しかしもし仮に、私がそれを行動に移したときに、誰かが死ぬだとか物騒なことを始める連中が、そう易々と私を見逃してくれるとも思えない。というよりも、この四人のあまりに能天気な振る舞いが、ここから逃げ出そうとしたときの私の行動を想像してみたときに、その行動自体がそれこそ異質なものであるように変異させてしまう。結果として、逃げ出そうとする気概が、私の中で損なわれてしまうのだった。とにかくまんじゅうを平らげて、この部屋から出るのが最善なのだと考えてしまう。そうは言っても五分の一だろう。自分が外れを引かなければよいだけの話ではないか。そう思うと、さして違和感なく、これからまんじゅうを食べるゲームに参加しようとしている自分がいた。
 ルールはシンプルに、と田邊が口を開き、一人ずつ順番に四個のまんじゅうを食べる事にしましょうか。と言って、それに対して、橘と宮部が声を揃えて、そうしましょう。と言い、森は頷いただけだった。「田邊さんも、いいですか」と田邊に声をかけられ、ええ、そうしましょう。と私が答えた。では、今度こそ本当に、あらためまして…と田邊が司会を始め、
「まんじゅう!」と掛け声が始まり、
「まんじゅう!」
「めっちゃこわい!」
「めっちゃこわい!」
 と、掛け声が続き、四人が一斉にまんじゅうに手を伸ばした。それを見て慌てて、私も遅れながらもまんじゅうに手を伸ばす。四人がそれを一斉に口に運び、食べた。私もワンテンポ遅れたタイミングで、口に入れた。味は普通のまんじゅうだったが、口に入れた途端、これが呪いのまんじゅうだったらと不安になり、吐きだしたい思いに駆られ、上手く咀嚼できない。
「うまい」と田邊がまず言い、
「うまい」
「うまい」
「うまい」

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