小説

『まんじゅう二十個食べる、めっちゃ怖い』ノリ・ケンゾウ【「20」にまつわる物語】(『饅頭こわい』)

 では、と田邊が改まった声を出して、周りの私以外の三人はそれを見ると目を閉じて瞑想するように、下を向いて黙った。なんだろう、何かが始まりそうな雰囲気すぎるな、と思って少し体が痒くなったが、私も輪を乱さぬように見よう見まねで下を向き瞑想をした。それから少しのあいだ沈黙があり、田邊が息を吸う音が部屋の中に響いてから、
「まんじゅう!」
 と、田邊が大きな声を上げた。するとまわりの三人も続いて、
「まんじゅう!」
 と、反復し、すぐにまた田邊が、
「めっちゃ怖い!」
 と叫び、
「めっちゃ怖い!」
 と、三人が声を揃えて叫んだ。それから少し間があってからもう一度、
「まんじゅう!」
「まんじゅう!」
「めっちゃ怖い!」
「めっちゃ怖い!」
 この後もう三回、はじめから数えると計五回、まんじゅう、と、めっちゃ怖い、の応酬があってから四人全員がすっきりしたような顔で目を開けたのを見て、
「え」と思わず声がこぼれた。
 意図せず出てしまった言葉であったが、かなりはっきりと発声してしまったためか、四人全員の視線を一斉に集めてしまい、そんな気はなかったのだが四人を不快にさせてしまったようで気まずくなった。しかしながらこのまま勝手の分からないまま、この四人がこれから始めようとしている何かに参加してしまえば、後でもっと分からなくて一人だけ浮いてしまうかもしれない。私がここにいること自体が、何かの間違いかもしれないのだ。田邊に向かって、
「あの、これから何が始まるんでしょうか?」
 と、ここまで経ってからするにはかなり間抜けな質問をした。この私の発言に、田邊が険悪な顔つきになり、こちらを一瞬睨んだように見え、何か言うのかと待っていると、横から橘が、
「あれれー、田邊さん、もしかしてはじめての人ですか?」と口を挟んだ。
「え、ええ。すいません。なかなか言い出せなかったんですが」と申し訳なさそうに言うと、また橘が、
「もうー、田邊さんこういうのはね、分からなかったら分からない、って始めに言わなきゃいけないんですよ。後から説明するのって、二度手間になっちゃうんですからー」と言うので、たしかにその通りであるから、「すいません」と謝り、「それであの、私たちは一体これから何をするんでしょうか」と改めて質問をしてみると、司会の田邊は露骨に嫌な表情をして私を睨むので、はじめに挨拶したときの田邊からは想像できないほどに凄みがあった。すると今度は、向い側から宮部が「田邊さん、いくら演出でも、あんまりしつこいとくどいっすよ、雰囲気作りは、もう大丈夫っす」と不機嫌そうに言う。「雰囲気作りなんかじゃ…」と口を挟もうとすると、「言い争いはやめて、先に進みましょう。初めての田邊さんのために、まずはルール説明から」と田邊が淡々と話し始ると、「くう〜、なんかいいね、こういう改まった感じも」と宮部が興奮した声を上げた。

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