小説

『コンビニエンス・プレイ』宮本一輝【「20」にまつわる物語】

「なんか、いいね」
 どちらからともなく囁くようにそう言って静かにうなずき合う。その扉はバックヤードから店内の一番奥の角につながっていて、出た場所からは店のほとんど全体が見えた。取り残された棚に品物は一つもなく、本来のこまごまとした物がいっぱいに配置された店内からは考えられないくらいに視界が開けており、ガラス窓から外の頼りない明かりを受け入れそのその姿形をぼんやりと浮かび上がらせていた。
「閉じこめられたみたい」
「わかる、それでエロいことされそうな」
 ナツがそう言って二人はふき出す。悪事に相応しい香りがそこには漂っていた。
 ナツがその光景に沈んでいくようにゆっくりと歩き出す。リサもその後に続く。二人とも無言のまま、店内を半周ぐるりと回り、レジ近くの本来なら菓子が並んでいたであろう辺りで先を行くナツが立ち止まった。
「どうかした」
「ちょっとね」
 彼女はリサの問いにまともに答えることはないまましばらく棚を眺めているとそのままふっと元来たバックヤードの方へ姿を消し、しばらくして落ちていたゴミであろうポッキーの空き箱を手にして帰ってきた。そしてそれを棚の一番上に立たせ、それからその前で墓の前でするように静かに手を合わせる。
「何してるの」
「なんかね、いるかな、と思って」
 それっきりで再び黙り、手を合わせる。どのくらいそのままでいただろう、音も動きもないコンビニの残骸では時間も感じられないまま、リサもまた黙ったまま、何かに向けて手を合わせる彼女を見つめていた。が、やがて沈黙にも、彼女の行動にも耐えられなくなったように不意にその口を、どこか棘のある口調で開いた。
「ねえ、そんなことやって意味あるのかな」
「ない」
 即答だった。
「あるわけないよ、だってゴミだもん、ただの遊び。でもね、ここが潰れたって聞いたときなんか少しだけ、ほんと少しだけ、チクッとしたの。うちらが二十円の盗ってたからかな、とか」
「わたしはしてないけど」
 リサが突き放すように言ってもそれに何か返すこともせず、弱々しく笑いを浮かべて彼女は続けた。
「まあ、そんなんだから。二十円で凍死するなら、やっぱり二十円でコンビニも死ぬのかもって、だからちょっと返そうかなって、カラ箱だけど、それだけでも。わかんないけど、カラのコンビニだからいいかなって。それに」

1 2 3 4 5 6