小説

『小さな川の出口』菊武加庫【「20」にまつわる物語】

 髪を切って困ったようにぐしゃぐしゃにする姿や、新しい服を皺にして笑う顔が頭をよぎる。それは誰にもわかってもらえないと、丸まっていた私自身でもあったはずだ。自分勝手に孤立するわたしはこの人と良く似ていて、やっとで補い合うことができたはずだ。それが良いか悪いかわからない。怒りや諦めでいっぱいの頭の中に別の自分がいる。なぜか笑いそうになる。
 わたしたちは巨大迷路をグルグル回っているかのようだ。出口がわからず、ひたすらグルグル回っている。違う道に入り込めば少しは進んだ気になるが、所詮迷路の中だ。初めて見る場所に出たつもりで、同じところを逆走しているだけのこともある。勝手に穴を開けて外に出る方が、余程賢い方法にちがいない。きっと視界も開けて遠くが見えるはずだ。
 渉だってわかっているはずだ。気づいていながら、見て見ぬふりをしてここに立っている。性懲りもないとしか言えない。人生は性懲りもないことの積み重ねだ。それだけはわかるようになった。
 問題は山積みだ。逃げ切ることができない強固な壁がなくならない限り、わたしたちは同じことを繰り返し続けるのだろう。それは社会であり、結婚や生活であり、そして最終的には二人の相違を突きつけてくる大きな壁だ。
 だけどこの人と補い合わなければ、わたしの毎日だって途端につまらなくなるような気がするのだ。とりあえず、今のところは。

「おいしいナポリタン作るよ」
「いらないし」
「太目の麺で、ケチャップは多めがおいしいんだ」
「だからいらないって」
 眼鏡のむこうに遠く小さな川の出口が見えた気がしたが、そんなものは最初からなかったような気もした。

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